「私、紅茶が飲みたいの。」

突然アイミィが言い出した。

「え?」

「だって、士官学校へ入る前はいつもばあやがおいしい紅茶を入れてくれていたのよ。」

「そんなこと言ったって、無理に決まってるだろ?」

ディロンが口を出した。

「だって・・・、私だってまさかこんな戦いになるなんて思ってもみなかったもの・・・。」

みるみる、アイミィの目に涙が溢れてくる。

「そうよねえ、アイミィって元々お嬢さんだもんね。」

シーモアが頷いた。

「僕が何とかしてみるよ。」

それまで黙って仲間の話を聞いていたラムザが言った。

「え?でもあてでもあるのかよ?」

「ちょっと待ってて。」

そう言ってラムザは飛び出して行ってしまった。

「クエーッ!」

ボコの甲高い声と共に、外を駆けて行く足音が遠ざかって行った。

 

「少しだけだから・・・。」

ラムザは何事か決心すると、イグーロス城の城門を叩いた。

 

「ラムザの奴、一体どうやって紅茶なんて手に入れようって言うんだろうな?」

椅子に腰掛けたディロンが、頭の後ろで両手を組みながら皆に尋ねた。

「ラムザのことだから、きっといい方法があるんだと思うけど・・・。」

シーモアが言った。

「どうしよう。私、何であんなこと言っちゃったんだろう・・・。」

アイミィは自分の言った事に後悔しているようだった。

「仕方ないわよ。誰だってこんな毎日じゃ気が滅入るもの。たまには紅茶ぐらい飲みたいわよねえ。」

「ハッ、シーモアってばほんと気楽だよなあ。」

ディロンが呆れて言う。

「あら、ディロンなんかに言われたくないわよ。」

「んだとぉ!!!」

「2人共やめてよ。」

アイミィが2人の間に割って入った。

見ると、目からは涙が流れている。

「・・・ごめん。」

「ごめんなさい。」

「とにかくさあ、ラムザを信じて待とうぜ。」

ディロンがばつが悪そうに言った。

 

「ラムザ様、一体今頃どうして・・・。すぐにダイスダーグ様をお呼びします。」

ラムザを出迎えた執事が慌ててダイスダーグを呼びに行こうとした。

「待って!ちょっとだけだから・・・。あの・・・兄さん達には黙っていてくれないかな?」

「えっ?何故ですか?折角こうして戻って来られたのに・・・。」

「きっと、今兄さんに会っても衝突するだけだと思うから・・・。」

「そうですか・・・。それで一体、何のご用ですか?」

「こんなこと頼めた義理じゃないんだけど・・・、紅茶を少し分けて欲しいんだ。」

ラムザの意外な一言に、執事は驚いて聞き返した。

「紅茶・・・ですか?」

「うん。仲間が・・・僕の大切な仲間がどうしても紅茶を飲みたいって言うんだ。このところ連戦続きだったから、たまにはくつろいでもらいたくて・・・。」

「そんなことで宜しいのですか?」

「うん。頼むよ。」

「分かりました。それでは少々お待ち下さい。」

そう言って、執事は部屋を出て行った。

 

「マーチン!マーチン、何処なの?」

突然聞き覚えのある声と共に、ラムザのいる部屋の扉が開いた。

「!」

「兄さん?ラムザ兄さん!?」

驚きに満ちたアルマの声・・・。

「・・・やあ・・・。」

何と答えたら良いか分からず、ラムザは間の抜けた返事を返してしまった。

「兄さん、いつ帰って来たの?」

「いや、ちょっと用事があっただけだから・・・、またすぐに出掛けるよ。」

「ひどいわ、兄さん。帰って来たのを秘密にしているなんて!今すぐダイスダーグ兄さんを・・・。」

咄嗟にラムザは、今にも叫びだしそうなアルマの口を塞いだ。

「待って!兄さん達には言わないで欲しいんだ。きっと不機嫌になるだろうから・・・。」

「分かったわ、兄さん達には黙っていてあげる。きっと書類の整理で忙しくて、こんな所には来られないだろうから、大丈夫よ。」

そう言ってアルマはにっこりと微笑んだ。

「でもどうして突然?」

「それなんだけど・・・。」

 

その頃、丁度イグーロス城へ戻って来たザルバッグが、変わった様子のチョコボを見つけて目を留めた。

「クエエ〜ッ!」

チョコボは、城の中を覗き込むようにして激しく鳴いている。

(変わったチョコボだな。城の中に何かあるのか?)

チョコボの様子はまるで、誰かを呼んでいるかのように見えた。

(イグーロスのチョコボとは違っているようだ。野生のチョコボか?)

ザルバッグは考えをめぐらせた。

(誰か客が来ているのか?しかし、野生のチョコボを乗りこなすとは・・・。)

疑問に思いながら、ザルバッグは城へと入って行った。

 

「そうなんだ。じゃあ私も一緒に連れて行って!おいしい紅茶を入れてあげる。」

当然のように言うアルマに、ラムザは反対した。

「何を言うんだ、アルマ!そんなの無理に決まっているじゃないか!」

ついついラムザは声を荒げてしまった。

「どうして?兄さんのお友達なんでしょ?私が会ったっていいじゃない。それに、私はこう見えても紅茶を入れるの上手なのよ。」

「そういう問題じゃなくて・・・。」

ラムザは心底困っていた。

アルマは普段はにこにこしているが、一度こうと決めたらテコでも動かない。

そして、大抵はアルマの方が1枚上手で、ラムザの方がやり込められてしまうのであった。

 

「ほらね、何も心配ないでしょ?」

「それがあるんだよー。」

アルマが開けっ放しにしていた扉の前を通りかかったザルバッグは、アルマとラムザの言い争う声を聞いてしまった。

「どうしたんだ?」

そう言って部屋に足を踏み入れたザルバッグを見つけたラムザは、しまったというようにうつむいてしまった。

「ラムザ?いつ戻って来たんだ?」

「ごめんなさい、ザルバッグ兄さん。すぐに出て行きますから。」

「何故だ?ここはお前の家じゃないか。」

「でも・・・。」

「兄さんのことか?大丈夫だ。この間はあんなことを言っていたが、お前のことは大切に思っているぞ。」

「いいえ、僕は・・・。」

そう言ったまま、ラムザは黙ってしまった。

「兄さん・・・。」

アルマも先程までの様子とは打って変わって悲しそうに表情を曇らせている。

そんな2人の様子を察して、ザルバッグが口を開いた。

「分かったよ、ダイスダーグ兄さんには黙っていてやろう。」

「ザルバッグ兄さん・・・。」

少しほっとした表情で、ラムザがザルバッグの顔を見上げた。

 

「ラムザ様、お待たせ致しました。・・・あ、皆様お揃いで・・・。」

何回分かの紅茶を袋に詰めて戻って来た執事が、驚いて言った。

「どういうことなんだ?」

「実は、ラムザ様のお仲間が紅茶を召し上がりたいとおしゃっておられるそうで、勝手ながらご用意させて頂きました。」

「そうだったのか。そんなことくらい、遠慮せずに言えばいいのに。」

ザルバッグが笑いながら言う。

ラムザは昔から自分達に対しては遠慮がちなところがあった。

そんなラムザに少し腹立たしい気分を覚えることもあったが、腹違いであるという遠慮がそうさせているのだろう。

「また何かあったら遠慮せずに来るがいい。さっきも言ったが、ここはお前の家だ。いつでも帰って来ていいぞ。」

「ありがとうございます。ザルバッグ兄さん。」

ラムザは心底嬉しく思っていた。

長兄のダイスダーグだけはどうしても苦手としていたが、次兄のザルバッグはこうして時々優しく接してくれた。

「あのチョコボは・・・、外にいたチョコボはお前のチョコボか?」

「はい。僕のかけがえのない・・・大切な仲間です。」

さっきまでのしょぼくれた顔とは段違いの笑顔でラムザは答えた。

「私も行きたかったのに・・・。」

アルマがふてくされたように言った。

「それは無理だぞ、アルマ。」

「ザルバッグ兄さんの意地悪!」

そういいながらも顔はくすくすと笑っている。

「私が行けない分も、ラムザ兄さんは時々顔を見せに来ること。いいわね?」

どちらが年上か分からない口調でアルマが言う。

「分かったよ。じゃあ元気でアルマ、ザルバッグ兄さん。」

「元気でな。体には充分気をつけるんだぞ。」

「はい。」

「元気でね〜っ、兄さ〜ん!」

アルマがいつまでも手を振っていた。

 

「ただいま!」

ラムザが戻った途端、アイミィが謝ってきた。

「ごめんなさい。ラムザ、わがまま言っちゃって。もうあんなこと言わないから・・・。」

「ちっともわがままじゃないよ。僕の方こそごめん、君達を巻き込んじゃって。」

「何言ってんだよ、仲間じゃないか!」

そう言ってディロンがラムザの背中を叩いた。

「痛っ。」

そう言いつつも表情には笑顔を浮かべて、ラムザは執事が持たせてくれた紅茶の袋を取り出した。

「紅茶を・・・少しだけど持って来たんだ。みんなで飲もう。」

「すごーい!ラムザ、よく手に入ったわね。」

シーモアが感心したように言う。

「・・・ちょっとした魔法さ。」

少しだけ照れながらラムザが言った。

ほのぼの路線、もしくはギャグ系で行こうと書き始めたのに、何故かこういう話になってしまいました。
初めはティータイムというタイトルにしていたはずなのに・・・。
管理人はいつも行き当たりばったりで小説を書いているので、こうなります。^^;
キャラクターが勝手に暴走してしまうんですね。(笑)
まあ、暗い話にならずに良かったです。
でも紅茶くらい手に入らないんでしょうか?
酒場ではきっとミルクはあっても紅茶はないのでしょう、ということにしておいて下さい。(^^;)
執事まで登場(しかも名前付き)してしまいました。
ところで、どこかで使ったようなタイトルだと思ったら「遙か」の方で使っていました。(笑)
なお、例によって会社で書きました。
でもこれを書いていたら頭が痛くなってしまいました。

2001.02.07


FFT