兆し

いつの頃からだろう。

僕の頭の中で沢山の声が聞こえるようになったのは・・・。

そう、初めの頃はまだ良かった。

 

あれは3つか4つくらいの時だったろうか・・・。

 

いつものように大好きな母と手をつないで、公園へ遊びに行った時のことだった。

公園では沢山の子ども達が遊んでいた。

僕は他人と打ち解けるのが苦手な子どもだったので、砂場で一人で山を作って遊んでいた。

こうして一人で遊んでいることも、僕には何の苦痛もなかった。

むしろ、とても楽しいひと時だった。

外で遊ぶことは嫌いではなかったから。

 

見知らぬおばさんが僕の方をにこにこしながら見ていた。

 

母は近所のおばさんとの会話に夢中になっていた。

 

見知らぬおばさんは僕の方へと近付いてくると、

「あら、かわいい坊やね。お名前は何て言うの?」

と声を掛けながら、僕の頭に手を乗せた。

その時だった。

僕の頭の中でおばさんの声が聞こえた。

(飴でもあげれば、ついてくるわよね。)

 

何で?おばちゃんはもう何にもしゃべってないよ。

でも絶対にこのおばちゃんの声だ。

 

僕は急に怖くなった。

 

いつもママや幼稚園の先生から、知らない人について行っちゃだめだって言われてるもん。

「ぼ、ぼく・・・、行かないもんっ!」

 

思わずそう叫ぶと、僕は母の元へと駆け出していた。

後には、驚きの表情を隠せないおばさんが一人、取り残されていた。

 

その日以来、僕の周りで聞こえるはずのない声が頻繁に聞こえるようになった。

 

「僕、みんなの考えていることが分かるんだよ。」

僕はママに喜んでもらいたくて得意気に話をしたんだ。

でもママはとてもびっくりして僕を抱きしめると、

「海、だめよ。そんなことを言っては・・・。」

と言ったんだ。

「どうして?すごいでしょ?ママ、嬉しくないの?」

「ええ。普通の人はみんなの考えていることは分からないのよ。」

「じゃあ僕、普通の人じゃないの?普通の人って何?」

「まだ海は小さいから分からないかもしれないけど、みんなには人の考えていることは分からないの。

海だけそんなことを言ったら、みんなにいじめられるかもしれないわ。

だから、その事はみんなには内緒よ。

いい?ママとの約束。海はいい子だから守れるわね?パパにも内緒よ。」

「うん。ママがそう言うんだったら約束するよ。

じゃあねー、ゆびきりげんまん!」

「ゆーびきーりげんまん、うーそつーいたーらはーりせんぼんのーます、ゆーびきった!」

「はい、これで約束!絶対にみんなには内緒よ。」

「うん。」

 

でもそれからママは僕を公園へ連れて行ってくれなくなった。

「ねえ、ママ。公園行こうよ。つまんないよー。」

「海、今度お引っ越しするのよ。

だから、お引っ越ししたら遊びに行きましょうね。」

「わーい、お引っ越しだあ。

お引っ越し終わったら公園行こうねー。」

 

それから間もなく、僕達は遠い町へ引っ越したのだった。


ネタがなくて古いものを引っ張り出してきてしまいました。(^-^;
書いたのは1999年だったと思います。

主人公は海(かい)という男の子です。
何だか海っていう名前が好きなんですよ、実は・・・。
でもありがちだなあ。
先、想像ついちゃうなあ。
しかも暗い・・・。


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2006年11月10日更新