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序章

いつまでも平和な日々が続くはずだった。

じいちゃんや村のみんなと・・・

いつまでも・・・


おだやかな陽射しの中、剣戟の音が響き渡る。

年はとっているが、眼光鋭い老人が剣を腰の鞘に収める。

「アルム、一休みしよう。剣の修行は終わりだ。もう、遊びに行ってもいいぞ。だが、村の外へは行くな。最近はこの辺にも山賊がうろついてるからな。」

「うん、分かったよ。じいちゃん。」

アルムと呼ばれた少年はいつものように、村のみんなのところへと駆け出して行った。

これから起こる運命のいたずらのことなど、何ひとつ知らずに・・・。


「みんなはどこだろう?」

仲間を捜していると、村の出口付近に彼らがいるのが目に入った。

「あっ、いたいた!」

「やあ、アルム、いいところに来たな。お前もこの人の話を聞けよ。」

グレイをはじめ、クリフとロビンも口々に同じことを言う。

見ると、いかにも戦士といった感じの男の人が立っていた。

「私はソルジャーのルカと申します。どうか、私の話を聞いて下さい。あの悪名高いドゼー将軍が、ついにクーデターを起こしたのです。ソフィアの城はドゼー軍に占領され、国王も殺されてしまいました。ドゼーは残虐な男で、毎日多くの人達がひどい目に合っている。僕達は解放軍を作ってドゼーと戦っているのですが、残念ながらうまくいきません。それで、マイセン将軍のお力を借りにきたのです。」

「なあ、アルム。国のみんなが困ってるんだ。みんなで助けに行こうぜ。」

ロビンの言うことはもっともだ。

「俺達はここで待ってるから、じいちゃんに頼んでみろよ。」

グレイの言う通り、じいちゃんに頼んでみるか。

「へえー、お前のじいちゃんって昔は将軍だったのか。」

クリフがそう言った。僕もじいちゃんが将軍だったなんて、初耳だった。

でも将軍だったんなら、喜んで参戦してくれるだろう。

家に戻ると僕はルカさんの話をじいちゃんに聞かせた。

しかしじいちゃんの答えは、僕が予想していたものとは大きくかけ離れていた。

「何、解放軍に入るだと!だめだ。許さん!!お前は戦ってはならぬ。悲しい思いをするだけだ。」

「じいちゃん、何でだよ!国のみんながひどい目に合っているっていうのに!それにじいちゃんは昔、将軍だったんだろ!」

「もう引退した身だ。さあ、お前も馬鹿な考えは捨てて、これまで通りここで暮らすんだ。」

「じいちゃんのわからずやっ!」

「アルム、待てっ!」

じいちゃんの制止の声を振り切って、家を飛び出した。

とてもじいちゃんの言葉とは思えなかった。今まで僕のやりたいようにやらせてくれたのに・・・。それに将軍ともあろうものが、国を見捨てるっていうのか・・・?

この時の僕はじいちゃんが悲しそうな瞳をしていることに気付いていなかった。

この時のじいちゃんの言葉の意味を分かっていなかった。


みんなの所に戻って詳細を話すと、ルカさんは心底残念そうな表情をした。

「だめでしたか。・・残念です。マイセン殿も年をとられて臆病になられたのですね。かつてはソフィアの勇者として国民から尊敬されていたのに・・・」

「待って、じいちゃんの代わりに僕が解放軍に入るよ。」

このまま国の危機を見捨てておくことなんてできなかった。それに、じいちゃんの名前を汚されるのも嫌だった。僕がじいちゃんの名誉を挽回してみせる!

「えっ!君がマイセン将軍の代わりに来てくれるのか。ありがとう。仲間達もきっと喜ぶよ。じゃあ僕と一緒に解放軍のアジトまで行こう。それから君には、解放軍のリーダーになってもらいたい。」

「ええっ?そんな・・・僕なんて新参者なのに・・・。」

「もともとマイセン将軍にリーダーになってもらうつもりだったんだ。君がマイセン将軍のお孫さんと知れば、軍の士気も高まるだろう。君には僕達の旗印になってもらいたい。」

ルカさんの顔は真剣そのものだった。

------僕は決心を固めると、口を開いた。

「分かりました。そこまでおっしゃるなら・・・。できる限り、力になりたいと思います。」

「それから、僕のことはルカと呼んでくれていい。さん付けはやめてくれ。僕も君のことをアルムと呼ばせてもらうよ。」

「わ、分かりました。」

ルカはグレイ達に向かって尋ねた。

「君達はどうする?君達のような若い力が加わってくれるとありがたいんだが・・・。」

「俺!?・・どうしようかな・・まあいいや、一緒に行くよ。だけど、危なくなったら助けてくれよ。俺達はお前とは違って、まだうまく戦えないからな。」

「ありがとう、クリフ。」

「アルムは俺達のリーダーだろ。もちろん一人で行かせないぜ。一緒にソフィアの城を取り戻そう。」

「ロビン・・・。」

「アルム、俺も行くよ。このラムの村だって、いつかは襲われるはずだろ。それなら先にそのドゼーとかいう奴をやっつけちまおうぜ。」

「みんな、ありがとう。」

みんなも一緒なら心強い。

じいちゃんはどうしているだろう?

僕は一度、ほんの少しだけラムの村を振り返った。

「アルム、どうした?」

「いいえ、何でもありません。」

「では、行こう。」

僕は生まれて初めて、村の外の世界へと出ていった。新たな仲間と共に・・・。


かつてこの地上に神と呼ばれる存在があった

バレンシアと呼ばれるこの辺境の島にも ドーマとミラという2人の兄弟神がいた

しかし

力こそ全てと信じるドーマは 人々が堕落することを許さず

生き物達が自由に遊びたわむれる楽園を夢見る妹のミラと 激しく争っていた

長い長い暗黒の時を経て・・・

ようやく彼らの間にひとつの盟約が結ばれる

バレンシアの大地を二つに分かち 北をドーマの支配に 南をミラの支配にと・・・・

そして幾千年の時が流れ

それぞれの神の支配の元に 二つの王国が生まれる

豊かなるが故に堕落した 南のソフィア王国と

たくましきが故に優しさを忘れた 北のリゲル帝国

それぞれに矛盾をはらんで 時は流れ

そしてついに

リゲルとソフィアの両王家に バレンシアの運命を変える 二つの命が誕生する

その日を境に バレンシアの歴史は再び動き始め 激しい戦乱の時代を迎えてゆく


「ここがラムの林だ。盗賊が潜んでいるかもしれないから、気をつけた方がいい。」

僕にとっては初めての経験だった。

そう、今までじいちゃんは僕が村の外に出ることを決して許してはくれなかったんだ。

「ねえ、じいちゃん、グレイ達はみんな村の外に出ていっているのに、どうして僕だけ行ってはいけないの?」

「お前はまだ未熟だ。早過ぎる。外には危険が待ち構えているんだぞ。」

何度尋ねても、いつも答えは同じだった。

僕はずっと不思議に思っていた。

何故だろう・・・。

「アルム、後ろだ!」

ルカの声に、はっと我に返った。

考えるより先に体が動いていた。

盗賊の攻撃をとっさにかわし、腰から剣を抜くと、盗賊に斬りかかっていた。

「見事だ、アルム。とっさに急所を仕留めるとは・・・。さすがはマイセン将軍のお孫さんだな。」

「おい、アルム・・・?」

「初めて・・・人を斬った・・・」

「酷なようだが、これが戦いという現実だ。」

「アルム、大丈夫か?」

「うん・・・。自分で選んだ道だ。今更引き返せないよね。」

「そうだね。俺も怖いけど、アルム達が一緒なら頑張るよ。」

「気をつけろ!まだ潜んでいるぞ!」

そうだ、ここは戦いの場だ。気を抜くわけにはいかない。

「くっそーっ、来るなぁっ!」

「クリフ、大丈夫かっ?」

ザシュッ!

盗賊が倒れる。

「ありがとう、グレイ。」

「くそう、俺だってーっ!」

「ぎゃあーっ!」

「すごいじゃないか、クリフ!」

「へへっ。」

「うわっ!」

攻撃を受けた。

「くそっ。」

僕は剣をしっかりと握り直し、盗賊に斬りかかる。

どうっ!

「どうやらこれで盗賊は全滅したらしいな。初めてにしては、みんなよくやったな。」

「いえ、ルカが的確な判断を下してくれたお陰です。」

「それにしても、アルム。君は本当に良い素質をもっているね。あと数年もすれば、立派な剣士になるだろう。」

「まさか、ルカさ、いいえ、ルカのほうがよっぽど・・・。」

「いや、僕はもうこれ以上には強くはなれないだろう。だが、君はまだ成長過程だ。無限の可能性を秘めていると思うよ。初めての戦いであれだけの反応ができるとは、正直言って、本当に驚かされた。」

「ルカにこんなこと言われるなんて、アルムってすごいなあ。」

「この先はもっと樹が茂ってくるぞ。」

僕達は通称、盗賊の森と言われているという場所に足を踏み入れることになる。


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