チビ猿・悟空と三人の親バカ達(11)
『サンタはウチにやってくる?〜ハッピィ*メリークリスマス』
街中が、いや世界中がクリスマスムード一色に彩られる12月。
それは、三蔵宅も例外ではなかった。
バタンっ!!
『しゃーーーんじょぉーー!!!!!』
朝の心地よい静けさを無視したにぎやかな声が、無情にも熟睡中の三蔵の耳に届く。
『しゃんじょ!!あしゃ!!!おきて!!』
『・・ぁあ・・・・・・・。』
ゆさゆさと布団ごと悟空に揺すられ顔を上げるも、眠気と寒さが勝ってしまい。
三蔵は再び布団の中に潜り込んだ。
そんな三蔵の様子に、悟空はむっと頬を膨らませると、三蔵のかぶる布団によじ登って馬乗りに跨り、足をじたばたさせて覆いかぶさった。
『もぅっ!!・・・・・・しゃんじょーーー!!あしゃなのーーー!!』
『・・こんなことしてイイと思ってんのか?』
布団の中から響いてきた声に、悟空は動きを止めてにっこり微笑んだ。
『あ、しゃんじょ?おきた?』
『起こされたんだよ・・・・・ったくもう少し優しく起こせバカ。』
折角おこしに来たのにもかかわらず、バカ者呼ばわりされた悟空。
さすがに癪にさわったらしく。
止めておけばいいものの、つい無謀にも言い返してしまう。
『ばかじゃないもん、おれ!!しゃんじょのほーが、ばか・・・・ひゃ』
突然布団からはえてきた二本の腕に抱きくるめられると、悟空はそのまま三蔵の布団の中に引きずり込まれる。
そして方眉を上げて口を歪める三蔵の腕の中に抱きくるまれる。
『誰がバカだ、誰が・・。』
『ひゃ〜〜っ!!おにーーー!』
きゃっきゃと喜びながら、悟空は布団の中に待ち構えていた三蔵に抱きついた。
『おふとんのなか、あったかーぃ!』
『あーそりゃ良かったじゃねーか。』
『ん〜。』
『お前、温いな・・・・・・・・』
子供独自の高い体温に、三蔵は暖をとるかのように悟空を腕の中に収め直すと目を閉じた。
『あっ・・・もー!!しゃんじょってば!!ねちゃだめなの!』
布団の中で、悟空は小さな両手を広げて三蔵の頬を挟み、ぺちぺちと叩いて起床を促した。
『・・・ったく・・・・・起きりゃいいんだろ・・・・・』
金色の髪をかきあげ、三蔵は大きなため息をつくとようやく布団から体を起こした。
起き上がった三蔵に満足そうに微笑むと、悟空はベッドの上で胡坐をかいて座った三蔵の膝に収まるように腰を下ろした。
そして、背中を三蔵に預けて足を投げだす。
ここ最近お気に入りの、悟空の”特等席”である。
『しゃんじょ、やっとおきた!!』
『・・・で?なんでこの寒いのにこんな朝早くから起こしに来たんだ?』
『あのねしゃんじょ!!もうしゅぐ、くりしゅましゅなの!!きょおはね、くりしゅましゅのじゅんびしゅるの!!!』
後姿からでも良くわかるほどに。
悟空はウキウキしていた。
目の前で柔らかく揺れる大地色の髪が、悟空の機嫌のよさを物語っている。
『・・そういえばそうだな・・・・』
嬉しそうな悟空の様子に、心なしか目を細めて三蔵は呟きをかえした。
『つりー、だしゅの。くりしゅましゅには、しゃんたろーがくるから、じゅんびして、おれ、まつ!!』
『・・・・・・サンタローじゃねぇよ。サンタクロースだ。』
今後のために、三蔵は一応間違いを訂正しておいてやる。
『あ、しょうしょう・・・・・。えと・・しゃんたくろ?』
くてんと小首を傾げて頭を掻く悟空に。
――違う。違うぞ微妙に・・・。
三蔵はガックリと頭をたれた。
三蔵の反応などつゆ知らず、悟空は話の続きを再開する。
『でね、しゃんたくろが、ぷれじぇんともってね、おれのとこに、くるの!!』
ちゃんと、おれのとこにも、くる?と悟空は三蔵を振り返ってそう尋ねた。
三蔵を見つめる瞳は、期待に満ちて光り輝いている。
『そうだな。イイコにしてたらな。』
『おれ、いいこ?』
『さぁな。サンタが来たら、イイコだったってことだろ?』
三蔵の口元が、意地悪く歪む。
と同時に、悟空の頬がプクッと膨らんだ。
『しゃんじょ、いじわるぅーーー!!』
口を尖らせて三蔵から顔を逸らす。
そんな悟空に、思わず三蔵の口から笑みがこぼれた。
悟空以外には決して見せない、柔らかな表情を浮かべて。
『ふ・・・誰が意地悪だ。ほら、朝飯。食いに行くぞ。』
『あしゃごはんっ!!!おれも、はら、へったの!!』
三蔵の言葉に、悟空は背けていた顔を三蔵に向けると、嬉しそうに三蔵の首に腕を回した。
そのまま悟空を抱き上げて、三蔵はリビングへと向かう。
その足元は、悟空が気に入ってせがまれた挙句全員おそろいで購入してしまったアニマル型ホワホワスリッパ。
悟空は長い耳がホワホワ揺れるピンクのウサギさん、八戒は白と黒がプリティなパンダさん、悟浄はつぶらな瞳が可愛いクマさん。
そして三蔵はというと―――黄色のたてがみが勇ましいライオンさんである。
『うーーーっ!!さぶっ!!』
庭と家の周りに電飾を飾り終えた悟浄が、ブルブルと震えながら家の中に入ってきた。
『ああ、お疲れ様でした悟浄!!』
『ごじょーー!!おかえりなしゃい!!』
リビングに入ると、やけに大きなクリスマスツリーが鎮座していた。
煌びやかに飾り付けられ、もう少しで完成、といったところだ。
『・・・・・・・・でけえ・・・・・・・・・・・・・・。』
去年、こんなにでかかったか・・?と悟浄の頭に疑問が浮かび上がる。
『でしょう?去年のは小さかったから。今年は奮発して大きなのを買っちゃいました。』
『おれがね、おおきいのがいいっていったら、はっかいがね、かってくれたの!!ねー!』
『ええ!!』
『・・・あのねぇ・・・・・。』
思いっきり目じりを下げて悟空に微笑む八戒に、悟浄は眩暈を覚えた。
『ね、はっかい!!だっこ、して?』
小さな手に大きな金色に輝く星の飾りを持って、悟空は八戒に向かって腕を上げた。
目線にあわせるかのように、八戒は悟空の前にしゃがみこむ。
『ええ。どうしました?』
『このおほししゃま、つけてもいい?』
『もちろん。これは悟空のためのツリーですから。』
柔らかく微笑むと、八戒は悟空の手がツリーのてっぺんに届くところまで抱き上げてやった。
『んしょ・・・・・できたーーーーーー!!』
『んじゃ、点灯するぞーー。』
がこっと星を差し入れて、巨大ツリーは見事なまでの完成を見せた。
悟浄がコンセントをはめ込み、小さな音と共にスイッチが入れられる。
黄色や赤や青や緑にチカチカ輝くイルミネーション。
てっぺんの星が、それらを反射してさらに光輝く。
『きれぇーーーーーーーーーっ!!』
『うーん、なかなかな出来ですね。』
『へぇ・・・・・・いーんじゃねぇの?』
『・・・悪くはないな。』
八戒に抱かれたままの悟空と、悟空を抱いたままの八戒。
それにスイッチを入れる姿勢のままの悟浄に、少し離れたコタツから様子を見ていた三蔵。
それぞれが、口々にそれぞれの言い方でツリーを賛美した。
そうしてしばらく、輝くツリーを四人は眺め続けた。
『はい、コーヒー入りましたよ二人とも。』
『おぉ、さんきゅ。』
『ああ。』
ツリーをひととき眺め終え、四人はコタツを囲んでいた。
勿論、悟空は”特等席”である三蔵の膝の上を陣取って。
コトリと机に置かれたマグカップから流れるコーヒーの心地よい香りが、部屋中に漂う。
『はい、悟空はミルクです。ちょっと熱いですから・・』
気をつけて飲んでくださいね?と念を押して八戒は悟空の前にマグカップを置いた。
『ん。おれ、きをつけるの。』
力強く頷いたそばから直ぐにマグカップに手を伸ばす悟空を、後ろから三蔵の手が止めた。
『おい、熱いっていってんだろ?冷ましてから飲め。』
『ん。でもね、飲みたいの。』
『ったくしょうがねーな・・・・』
しょんぼりと見上げられ、三蔵は小さく呟きをもらして悟空のウサギのプリント柄マグカップを取ると口に運ぶ。
そして、フーフーとまるでお母さんが子供にやるようにホットミルクを冷まし始めた。
『う・・わ・・・。なーんかママだねーー・・。』
『何か・・・・・恐ろしいまでに・・・似合いませんよ三蔵・・。』
『・・・煩い・・。』
膝に悟空を乗せたままホットミルクを冷ます三蔵の様子に、二人は盛大にため息をつくと机のうえに倒れこむ。
『・・・・・・・それはそうと・・悟空?』
少したって。
気を取り直した八戒は、顔を上げると悟空に微笑みかけた。
『なぁに?』
三蔵のおかげで飲めるくらいにまで冷めたホットミルクをおいしそうに飲んでいた悟空が、ニッコリ笑って八戒に顔を向ける。
『プレゼント。今年は、サンタさんに何頼むんですか?』
八戒の言葉に、その場の全員がピクリと反応を示す。
まだサンタクロースを信じている悟空の夢を守るため、毎年クリスマスプレゼントは一つだけ。
過去に一度三人で話し合った結果、、何個もあるとおかしいだろうという結論にいきついたからである。
こうして毎年、さりげなく悟空から欲しいものを聞き出すことになっていた。
じっと動きを止めて、三人は悟空の回答をまった。
やがて。悟空がマグカップをコトリとおいて、口を開く。
『んーーーとねぇ・・・・・・・・。』
『えぇ?何ですか?』
『えーーとねぇ・・・・・・・・。』
『・・・何なんだ?』
『えへ・・・・・・・・・・ないしょっ』
その場が一気に凍り付く。
(((・・・・・・・・内緒・・・・・!?)))
今まで。こんな事はなかった。
笑顔で”うしゃぎしゃんの、ぬいぐるみほしいって、おねがいしたの!”と去年は答えてくれた。
その前も”ごくーね、いちごけぇき、しゅきなの!”と答えてくれた。
なのに。
(((今年はこう来たか・・・・・・・・・!!!)))
三人は心の中で叫びをあげた。
これでは可愛い可愛い悟空に、欲しいものをプレゼントすることが出来ないではないか。
『・・・どうして内緒なんですか?』
若干青ざめた顔をした八戒が恐る恐る悟空に詰め寄った。
悟空を見つめる緑色の瞳が少し潤んでみえるのは、気のせいだろう。
『だってね、もうおれ、しゃんたくろに、おねがいしたもん。』
だからもう内緒なの。と、まったく根拠はないが可愛らしい言い分を悟空はもらした。
『・・・別に、内緒にしとく必要なんざないんだが・・・』
『でもね、なにもらうか、しゃんじょたちにいったら、おもしろくないでしょ?』
こめかみを押さえながら言う三蔵を、悟空は満面の笑みで見上げた。
『でも、俺ら知りたいぞ〜?悟空が何貰うのかを・・・なぁ?』
悟浄の言葉に、三蔵と八戒は無言で頷きをかえす。
そんな三人の様子に、悟空は嬉しそうに口元に手をやって微笑んだ。
『えへぇ・・・・お・た・の・し・み・っ!!』
(((・・・・・可愛すぎる・・。)))
三人の周りに、ピンクの花が咲き乱れ、風に乗って飛び交う。
―――完全なる悟空の圧勝だった。
『・・・・はぁ・・・・・・』
誰とも知れないため息が、静かに響き渡った。
後日。
三蔵がさり気なく悟空から欲しいものを聞き出すことに成功して。
三蔵宅のクリスマスは無事幕を下ろしたのだった。
結局、悟空の欲しがったプレゼント、それは――――
悟空、そして三人の親バカのみぞ知る。
あとがき
クリスマスを意識しての作品です。
長くなり過ぎましたスミマセン;;
世界中の人々に、幸せが訪れますように・・
ハッピィメリークリスマス。
2002・12・20 橘蒼天 |