おまじない

「ねえ、ラムザ。今日はマンダリア平原の方へ行ってみようよ。」

「でも、ディリータ。兄さん達に黙って行って怒られないかな?」

「大丈夫さ。近くだし、僕がついているから・・・。僕がラムザを守ってやるよ。」

「うん。ディリータは強いもんね。」

ディリータを実の兄のように慕っているラムザは、信頼しきった笑顔を向けた。

年の頃は7、8歳くらいだろうか?

2人は兄弟ではなかったが、ずっと兄弟のようにいつも一緒だった。

 

「じゃあ、行くぞ。」

「うん。」

まだ幼い2人は手に手を取って駆け出した。

 

「うわあ!風が気持ちいいね。」

「そうだな。」

そう言うとディリータは草の絨毯に腰掛け、手頃な草を引き抜いた。

『ぷぅ〜』

「あれ?どうもうまくいかないな。」

ディリータはラムザの父親であるバルバネスから教わった草笛を吹こうとしているらしい。

ラムザもディリータの隣りに腰掛けると、草笛を鳴らし始めた。

『ピー』

「ラムザはうまいよな。」

感心しながら、羨ましそうにディリータが言う。

「でも僕は他のことではディリータにはかなわないから。」

「そのうちラムザももっともっといろいろできるようになるよ。僕が保証する。」

その言葉に何故かちょっぴり照れながら、ラムザが嬉しそうな顔を向ける。

「ディリータが言うと、何故か全部信じられそうな気がする。」

(ラムザってすぐに顔に出るよな・・・。)

そんなラムザの表情を見ているのが、ディリータは好きだった。

自分には大切な妹がいるが、ラムザのことも弟のように大切に思っていた。

 

『ぷぅ〜』

「駄目だなー。」

「もっとこういう風にした方がいいんじゃないかな?」

『プー』

「できた!」

「わーい、やったね。ディリータ!」

『プー』

『ピー』

2人は得意になって草笛を吹き続けた。

 

しばらくしてラムザが立ち上がった。

遠くの方を眺めていたが、突然ディリータも驚くほどの声で叫んだ。

「危ないっ!」

そう言うと、普段の穏やかなラムザからは考えられないほどの猛スピードで駆け出した。

「ラムザ、どうしたんだ?おい!」

わけが分からないまま、ディリータも立ち上がって後を追った。

 

ラムザは突然小石を拾うと、投げつけた。

「えいっ!あっちへ行け!」

「ラムザ・・・。」

ディリータが追いついてみると、ラムザは必死になって蛇に襲われそうになっている小鳥の巣を守ろうとしていた。

蛇はラムザの方に向き直ると、襲いかかってきた。

「痛っ・・・。」

蛇の牙はラムザの腕をかすめた。

「くっそー。」

ディリータは木の枝を折って蛇に殴りかかった。

「えいっ!」

ラムザも懸命に石を投げた。

ようやく動きを止めた蛇を見下ろして、ラムザがほっと一息をつく。

「良かったぁ。無事だったね。」

ラムザは雛に向かって微笑んだ。

ディリータもようやく棒きれを手放した。

「ラムザ、血が出てるじゃないか。」

「えっ?あっ、ほんとだ。」

まるで他人事のように言うラムザを見て、ディリータは腹がたった。

「馬鹿っ、ラムザがやられるかもしれなかったんだぞ!」

「だって・・・だって・・・。小鳥さんがやられるのは嫌だったんだ。」

激しい剣幕のディリータの様子を見て、目に涙をためながらも、ラムザは強い意志を込めた瞳で訴える。

「それより、毒は?大丈夫なのか?」

「うん。この蛇には毒はないって、ザルバッグ兄さんが教えてくれた。」

「ふう・・・。」

ディリータもようやく安心してほっと息をついた。

「ごめんな、怒鳴ったりして・・・。ほら、腕を見せてみな。」

「うん、僕の方こそ、心配かけてごめんね。」

「これは、まだ母さんが生きていた時に教えてもらったんだ。痛くなくなるおまじないだ。」

「ほんとだ、痛くなくなったよ。すごーい!ディリータって魔道士みたいだね。」

「そんなことないさ。ラムザにも教えてあげるよ。だけど、これは2人だけの秘密だからな。」

「うん。2人だけの秘密だねっ。」

 

怪我をしてベオルブ邸に戻ったラムザを見たダイスダーグには大目玉をくらったが、2人はその夜、幸せそうに微笑みながら眠りについていた。

「2人だけの秘密だからな。」

「うん。2人だけの秘密だねっ。」

ラムザとディリータのみが使えるおまじないが気になって書いてしまった話です。
初め思っていたものと違う展開になってしまいました。
本当はもっと泣き虫ラムザくんにするはずだったんですが・・・。(笑)
書いているうちに、勝手にキャラクターが違う方向に走ってしまうんですよね。^^;
会社が暇になったので会社にて・・・。(+_+)

2000.12.15


FFT