ペネロペイアの夢
ギリシアの詩人ホメロスの代表作ともいえる叙事詩オデュッセイア。物語は主人公であるオデュッセウスがトロイア戦争に出陣し、その後各地を放浪して20年ぶりに我が家に戻るまでを描いたものです。妻のペネロペイアはずっと夫の帰りを待ち続けますが、その間毎日のように彼女の屋敷には、再婚を迫る沢山の求婚者達が訪れては、彼女を悩まし続けます。そんなある日、ペネロペイアは夢を見ました。
「屋敷の中で20羽の鵞鳥が、水の中の小麦をついばんでいます。すると大鷲がやって来て鵞鳥を皆殺しにし、天に舞い上がって行きました。それを嘆き悲しんでいると、周りには美しい髪のアカイアの女達が集まっていました。鷲は再び舞い戻り、屋根に止まって人の言葉で『この夢は実現するだろう。鵞鳥は求婚者達、そして鷲は夫であり求婚者を残らず根絶やしにするだろう。』と告げます・・・・・・。」
この夢をペネロペイアが汚い身なりの放浪者に語ると、彼もそれは正夢だと言います。実はその放浪者こそ、オデュッセウスだったというわけです。
さて、ここで出てくる20羽の鵞鳥とは20年の歳月であり、同時に厄介な求婚者の象徴です。また鷲は支配者であり、アニムスとしての夫の暗示です。ペネロペイアは鵞鳥が殺されたのを悲しみますが、夢の中での悲しみは現実世界では喜びに変わることが多いのです。美しい髪のアカイアの女とは女神、あるいは天使のような存在でしょう。そして人の言葉を話す動物や鳥の夢は、未来を告げる正夢の印・・・・・・。
こう見てくると、ここには実に見事に夢の象徴が語られていることが分かります。