京劇役者の滑らかで流れるような手の動きは、全てたった1つの基本的な動作から生み出されると言われます。 それが「雲手」と呼ばれる一連の所作です。 能の「ヒラキ」のようなものと考えて頂ければ分かりやすいでしょう。 山膀の姿勢から両腕を交差させ、顔の前で弧を描いて再び山膀の姿勢に戻る4、5秒程の短い動作ですが、これを十全に習得するまでには実はかなりの時間がかかります。 初めは一律個性のない同じ形の動作を練習しますが、演技のレベルが上がってくると、動き自体にその役者独自の韻律のようなものが生まれ、更に微妙なリズムや強弱の付け具合によって、演じる人物の性格や感情などを鮮明に表現できるようになります。 舞踊の中の様々な所作も、雲手のバリエーションとして千変万化に生み出され、正に京劇役者の演技術の基盤といっても良いでしょう。 かつてとんぼ返りが上手な若手の役者が武生の名優高盛麟を訪ね、自分の演技を認めてもらおうと技を披露しました。高盛麟はひとわたり見終わった後、最後にその役者に雲手をやってみるよう促しましたが、それを聞いて若い役者はそのまま部屋を出て行ってしまいました。 派手なとんぼ返りができても、雲手ができなければ京劇役者とは認められないということの証左でしょう。 |