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物心ついた頃から竜騎士に憧れていた。 幼い頃、母にせがんで繰り返し読んでもらった竜騎士ギルの物語。 今では手垢で汚れてしまっているその絵本はルークの大切な宝物となっていた。 「母さん、僕、竜騎士になるよ。」 14の誕生日を迎えたルークは、思い切って母親に切り出した。 「何を言っているの?ルーク!正気なの?」 「うん。もちろん!母さんだって僕がずっと竜騎士に憧れていたのを知っているでしょ?」 「それはそうだけど・・・憧れと現実は違うのよ。」 「でも僕、決めたんだ。」 そう言ってルークは真剣なまなざしで母親の顔を見つめた。 ルークには父親がいなかった。 母親の話では、ルークが生まれて間もなく病気で亡くなったとのことだった。 それ以来、母親は女手ひとつでルークを育ててきたのだ。 「お願いだよ、母さん!僕は自分の可能性にかけたいんだ!」 母親は黙って息子の顔を見つめた。 息子の意志の強そうな瞳の奥に自分の姿を認めると、母親は決心したように口を開いた。 「分かったわ。どうしてもと言うのなら、もう止めないわ。でもね、これだけは覚えておいて頂戴。いつでも、戻りたくなったら戻って来なさい。母さんはずっと待っているから・・・。」 その言葉にルークの目には涙が溢れてきた。 「・・・・・・ありがとう・・・母さん。ごめん。母さんを一人で置いて行くような真似をして・・・。」 「何を言っているの?自分から言い出したことでしょう?だったら納得のいくまで頑張ってきなさい。」 「うん。」 幼い頃より竜騎士に憧れていたルークは、母親にも内緒の鍛錬を怠らなかった。 そう、5つの頃から毎日休むことなく鍛錬を続けていたのだ。 体つきは小柄だったが、俊敏さには自信があった。 そして、竜と共にある騎士にとって最も重要な資質である、竜と心を通わせるということにも・・・。 鍛錬を始めて間もない頃、ルークは母親のために崖っぷちに咲いている綺麗な花を持ち帰ろうとしたことがあった。 大人であったならば難なく取ることのできた花も、幼いルークにとっては遥か彼方に見えた。 懸命に手を伸ばしたものの、どうしても手が届かない。 「くっ・・・」 花に意識を集中していたルークは、足元が危うい崖であることなど、すっかり頭の中から消えていた。 「うっ、うわあぁぁぁぁーっ。」 ルークは足を踏み外すと、まっさかさまに崖下へと吸い込まれて行った。 薄れ行く意識の中で、ルークは何かが吠える声を聞いたような気がした。 |