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「っ・・・。」 男が1人倒れた。 「何だ、どうした?うわーっ。」 わけの分からないうちに、次々と部下が倒れて行く。 「ザッツなのか?」 ゲルマンは目を凝らしたが、外の明るさに慣れた目ではこの暗さの中で相手の姿を捉えることはできなかった。 「ザッツ!私だ。ゲルマンだ。攻撃をやめろ!そして姿を現すんだ。」 とうとうゲルマンはそう叫んだ。 次の瞬間、目の前にザッツが立っていた。 「うわっ、驚かすな。」 ゲルマンは慌てたものの、すぐに言葉を続けた。 「任務は終えたのか?」 「・・・・・・。」 「終えたのだろう?ならば何故すぐに組織に戻らない?」 「・・・・・・。」 「おい、何とか言ったらどうだ、ザッツ!」 「・・・すけた・・・。」 「えっ?」 ようやく何か呟いたギルであったが、ゲルマンの耳にはよく聞こえなかった。 「助けた・・・。殺し、見られた。でも、助けた。だからもう戻れない。」 「何だって?殺しを見られた?」 「俺はリュートを助けた。俺はリュートを守る。だからもう、戻れない。」 「何を言っている、ザッツ?殺しを見られた相手は生かしておくなとの組織のきまりを忘れたのか?」 「覚えてる。でも俺は助けた。だから戻れない。」 ザッツは抑揚のない声で、相変わらず同じ言葉を繰り返している。 「戻れないだと?そんな我侭が通用すると思っているのかっ!」 ゲルマンが声を張り上げた。 「ゲルマン様、奥に人間がいます。」 その時、部下の1人がゲルマンに報告してきた。 「リュート!」 その途端ザッツは踵を返すと、あっという間に奥へと姿を消した。 「おい、ザッツ!」 慌てて後を追ったゲルマンは、ナイフを構えて立ちはだかるザッツの姿を目にした。 「ザッツの後ろに少年がいます。」 先程の部下が再び報告する。 「その少年に殺しを見られたのか?」 「ザッツ?一体どうしたの?」 辺りの騒がしさに、眠っていたリュートが目を覚ましたようである。 何とか体を起こすことができるようになっていたリュートは、体を起こした。 「誰かいるの?」 そう言ってザッツの背中ごしに、声のする方を覗いてみた。 「あなた達は?」 「ザッツ、今ならまだ間に合う。その少年を殺せ!」 ゲルマンがそう命令すると、ザッツの目つきが獣のように鋭さを増した。 「リュートは俺が守る。」 「何だとっ?」 思いもかけない言葉に、ゲルマンはとまどいを隠せない。 「リュートを傷つける者は、俺が殺す!」 「何を馬鹿なことを・・・。」 「帰れ!近付けば殺す!」 ザッツは今にも飛びかかりそうな勢いである。 「・・・分かった。今回は退こう。しかしこのことはガイアード様に報告するからな。この次は良い返事を期待している。」 そう言ってゲルマンは退くしかなかった。 少年を人質に取ることも考えたが、ザッツには全く隙がなく、少年を拉致しようとすれば逆にこちらが被害を受けることは分かりきっていた。 仕方なくゲルマンは手ぶらでバルクに戻ることになった。 「何?ザッツが逆らっただと?それで手ぶらで戻って来たというわけか。」 ガイアードは低い声で言った。 しかし視線は、鋭く目の前の男を射抜いている。 「はっ、申し訳ございません。」 ゲルマンはひたすら平身低頭するしかなかった。 「どうしても連れ帰れないというのであれば、ザッツを殺せ。裏切り者は必要ない。」 「はっ。」 「全く、とんだ損失だ。ザッツの代わりが務まるような者は、現在のバルクにはおらぬな。情けないことだ。」 ゲルマンが退室すると、ガイアードは1人苦笑いを浮かべた。 |
2006年8月25日更新