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「何だと?ザッツが戻って来ない?一体どういうことだ?」 まだ30代半ばほどの男に向かって、中年の男が頭を下げていた。 「はい。いつもなら仕事を済ませてすぐに戻って来るのですが、どこにも姿が見当たりません。」 「馬鹿者っ。捜せっ!ザッツはバルク一番の殺人マシーンだ。あいつをここまで育てあげるのに、どれだけ金をかけたと思っているっ!」 「はっ、申し訳ありません、ガイアード様。我らも全力を尽くして捜しておりますゆえ・・・。」 男は床に頭をすりつけるようにして、ひたすら謝っている。 若干36歳のガイアードをトップとしたバルクは、金を積まれれば暗殺以外にも何でも引き受けるという暗殺組織だった。 まだ幼い頃よりガイアード自らに鍛え上げられたザッツは、その組織のナンバーワンの暗殺者であった。 12歳の頃より仕事を始め、これまでに受けた仕事の成功率は100%。 その、感情のこもらない瞳をしたただの殺人マシーンとしての彼は、とても16歳の少年には見えなかった。 その手際の良さは、ほとんど相手に気付かれぬうちに忍び寄り、相手を即死に追い込む。 まるで熟年の暗殺者のようである。 殺人の技、自らの傷の手当ての仕方、毒薬の知識、そういった物以外のことは教えられていなかった。 それゆえ人を殺すことに対して何の感情も抱かない、現在の彼が出来上がっていったのである。 組織にとってザッツは貴重な殺人マシーンであった。 平均的なバルクのメンバーの10倍もの人数の人間を、ごく短時間で暗殺できるのである。 それゆえに彼の捜索は大がかりに行われていた。 ザッツに似た少年を町中で見かけたという情報が入ったのは、捜索開始から10日後のことであった。 「なるほど。包帯と薬を大量に買って行ったというのだな。」 部下から報告を聞いているのは、ガイアードの前で頭を下げていた中年の男であった。 「はい、ゲルマン様。」 「分かった。しかし、本人は怪我をしている様子はなかったと・・・。」 「そのようです。」 「不思議だな。ザッツの他に何者かが一緒にいるとしか思えない。」 ゲルマンは首をかしげた。 「とにかくその辺りにいることは間違いないだろう。大量の包帯が必要な相手が一緒ならば、尚更な。」 必死の捜索により、ゲルマンはようやくザッツが潜むという隠れ家を見つけることができた。 「ここに間違いないのだな。」 「はい。間違いなくザッツが入って行くのを見た者がいます。」 「そうか。しかし、ザッツは何をしているのだ。とにかくザッツを連れ戻すぞ。」 「は、はい。」 部下達はどこかそわそわとした様子である。 「おい、何をしている。急げ!」 「はい!」 一行は恐る恐る建物の中に足を踏み入れた。 ザッツは組織の者の目から見ても、何を考えているか分からなかった。 感情を持たないのだから当然といえば当然であったが、あの冷たい瞳を目にすると体が凍りつくようであった。 それゆえ、皆ザッツに恐れを抱いていた。 「!」 ザッツが辺りの空気の流れが変わったのを感じて、ナイフを手に取った。 体中の毛を逆立てている獣のような鋭い瞳を、辺りに向ける。 ザッツは足音を立てずに、部屋を出て行った。 |
2005年4月22日更新