少年兵

駐屯地では夜中にも関わらず、明々と炎が灯されていた。

髪の毛を後ろで束ねた銀髪の少年が1人、テントの中へと入って行く。

比較的大きなテントの中にはベッドが4つ並べられていた。

1人はぐっすりと眠り込んでおり、辺りに響き渡るほどのいびきをかいている。

1人はベッドに横にはなっているが、寝付けないようである。

そしてもう1人は、立ち上がって身支度をすませていた。

入って来た銀髪の少年が、茶色い髪の少年に声を掛けた。

「気が早いな、ユーリ。もう着替えたのかい?僕も同じだけどね。キャロの街にもどれると思ったら、軍服なんて、着てられないよ。」

「やっぱりそうだよね、ジョウイ。」

ユーリが答えると、ジョウイはどこか遠くを見つめるようにして言った。

「なぁ、ユーリ・・・・、ナナミも待ってるだろうね、君が帰って来るのを・・・・・。ゲンカク師匠が亡くなってからは君だけが、ただ1人の家族だから・・・・・。戦いなんかなければ・・・・。」

ユーリが黙り込んでしまうと、ジョウイは打って変わって明るい調子で言った。

「さあて・・・・そろそろベッドに潜り込もうか?それとも、夜風にでも当たりに行くかい?結構気持ちいいよ。」

「少し外に行ってみるよ。」

「じゃあ、僕も付き合うよ。」

2人でテントの外へ出ようとすると、ベッドから声が聞こえてきた。

「僕は、都市同盟との休戦協定なんか信じてないよ。それに、王国のためにこの命はいつでも捨てる覚悟さ。」

しかし続いて聞こえてきた声は、正反対のものだった。

「ぼ・・・ぼくが、協定ができて嬉しいな。戦いなんか・・・嫌だよ・・・早く、お家に帰りたいよ。ユーリだってそう思うだろ?」

「うん。勿論だよ。」

兵士とはいえ、まだ少年である。

心細く思うのも当然であった。

そして、誰も心から戦争をしたいとは思っていなかったのである。

2人はテントの外へ出た。

「あ、ユーリとジョウイ、もう着替えている。隊長に見つかったら、怒られるぞ。気持ちは分かるけどね。」

真面目に見張りをしていた少年に見つかってしまったが、口ではそう言っても彼自身も同じ気持ちであったので、本気で言っているのでないことは分かっていた。

ユーリ達の隣りのテントへ入って行くと、やはり街へ帰ることのできる嬉しさからか、少年達が話に花を咲かせていた。

「これで、やっと帰れるんだね。結局前線には行かなかったけど、戦いなんて、もう懲り懲りだよ。」

「何だって!誇りあるハイランド王国軍、ユニコーン少年兵部隊の言葉じゃないぞ!!」

「待ってよ。こんな所で喧嘩するなんて。」

「何だよユーリ、お前まで浮かれて、もうママの所に戻った気分なのか?」

「そ、そんなわけじゃ・・・。」

言い争いを始めた2人であったが、いつものことなのか、ベッドに寝ていた少年兵が起き上がってくると、ユーリに向かってこっそりと耳打してきた。

「・・・・あの2人ケンカばかりしてるんだよ。どっちの気持ちも良く分かるんだけどね。」

少年は喧嘩をしている2人の間に割って入ると、さっさと喧嘩をやめさせ、ベッドに潜り込んでしまった。

そしてすぐに寝息をたて始める。

言い争っていた2人はお互いにそっぽを向いたまま、終始無言であった。

「仕方ないなあ。行こう、ユーリ。」

ジョウイに声を掛けられ、ユーリ達はテントの外へ出た。

2人が着替えているのを見て、1人の少年兵が羨ましそうに声を掛ける。

「いいなぁ。僕が帰れるのは1週間後だよ。早く、お母さんに会いたいなぁ。」

側で剣の手入れをしていた少年も、声を掛けてくる。

「聞いてくれよユーリ、ジョウイ。今日は、僕が見張り番だったんだけど途中まででいいってさ。これも、休戦協定のお陰だね。」

「そうか、良かったね。きっと近いうちにみんな帰れるよ。」

ユーリはそう言って、奥のテントへと向かった。

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