倦土重来〜鎮守の沼にも蛇は住む〜 第10話

夏休みに入ると、私達の合宿生活が始まった。
連日の練習は、暑さを除けばとても楽しいものだった。
だんだんとみんなの息が合ってきて、素晴らしいハーモニーが生まれた。
そして今練習中の曲には、北条先輩のソロがあるのよね。
先輩の音色は澄んでいて、とても綺麗なの。
私はピッコロ担当だけど、私も先輩みたいな素敵な音色が出せるといいな。

「よっ。」
2週間の合宿が終わって家へ戻る途中、一真君に出会った。
「今日で合宿、終わりだったよな。どうだった?」
「うん、いい感じだったよ。」
私が答えると、一真君もにこにこしながら嬉しそうに言った。
「俺もさあ、憧れの人に指導してもらったんだぜ。」
「へえー。」
「剣道全日本チャンピオンの武田忠頼さん、知ってるだろ?」
「確か、一真君が剣道を始めるきっかけになった人よね?」
蘭がそう尋ねると、一真君は頷いた。
「すごいよなあ、18歳の時から7年連続チャンピオンなんだぜ。」
「それはすごいわね。今年はこれから大会があるんだっけ?」
「ああ。9月にあるんだ。俺も大会に出るから、応援しに来てくれよ。」
「そうねー。武田さんの応援なら行ってもいいかも。」
「何だよあかねー。」
一真君はちょっとだけふてくされているみたい。
「あかねってば、からかうのは止しなさいよ。大丈夫よ、一真君。私がちゃんとあかねを連れて行くから。」
「サンキュ!やっぱ、蘭は優しいよなー。」
「どうせ私は意地悪ですよーだっ!」
私は頬を大きく膨らませた。
「あっ、一真君にあかねちゃーん、蘭ちゃーん!」
その時、後ろから聞こえてきた声に私達は振り返った。
「詩雄に息吹じゃないか。一体どうしたんだ?」
「あのね、息吹君と夏休みの宿題をしに、図書館へ行って来たんだ。」
「へえー、感心だな。」
「何たって、後半にはお楽しみが控えているからな。宿題は早めにやっておかねえとなっ。」
息吹君はウィンクしながらそう言った。
「あーあ、私達は夏休みに入っていきなり合宿だったから、宿題まだなのよねー。蘭、お願い!英語の宿題教えてー。」
私は両手を合わせて蘭に頼み込んだ。
「もうー、仕方ないなあ。少しは自分で考えなさいよね。」
「あかねってば、相変わらず蘭に頼りっきりでやんの。」
息吹君にそう言われ、私は反撃した。
「何よ、どうせ息吹君だって詩雄君に教えてもらったんでしょ?」
「そ、それは・・・。」
息吹くんは途端にもごもごと口篭もった。
「お互い様ねっ。」
私がにやりと笑うと、一真君が口を挟んだ。
「それってちっとも自慢にならねえと思うんだけど。」
「それもそうね。あははははっ。」
「ところで、あかねと蘭も秋には大会があるんだろ?」
「そうなの。剣道の大会とは日にちが違うから大丈夫よ。」
「へえー、俺はもう終わっちゃったぜ。」
息吹君が涼しい顔をして言った。
「ええーっ?折角応援に行こうと思ったのにー。」
「だってさー、3人とも合宿だっただろ?絶対に無理じゃん。」
「そっか。合宿中だったんだね。それで、結果はどうだったの?」
「へへっ。全国大会進出だっ!」
得意気に胸を張る息吹君。
「すっごーい!って待ってよ。全国大会進出ってことは、まだ大会終わってないんじゃないの?」
「へへっ、実はそうだったりー。」
「で、いつあるの?」
「何故かさあ、全国大会だけ遅いんだよなー。10月。体育の日に合わせるらしい。」
「そうなんだー。じゃあ、全国大会は絶対に応援に行くからね。」
「頼んだぜ、あかね。あ、蘭と一真も観に来てくれるんだろ?」
「もちろん行ってやるよ。」
「僕も行くからね。」
詩雄君がにっこりと微笑みながら言った。

ようやく2人が登場しました。
そしてまた、名前だけのキャラクター登場です。
なかなか全員揃わないですね。(^_^;)

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倦土重来〜鎮守の沼にも蛇は住む〜へ

2006年2月3日更新