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アルスは、ロープを伝って慎重に井戸の底へと降りて行った。 辺りを見回すと、暗闇の中でキラリと光るものがあった。 「あっ、あれかな?」 アルスはそれを拾い上げた。 何と! それは真珠玉であった。 アルスは真珠玉を持って再び井戸のロープを上って行った。 「おや、何か見つけたみたいだね。どれどれ、ちょっと見せて・・・・・・。」 おばさんはアルスが手渡した真珠玉を手に取って見ていたが、やがてこう言った。 「ふーん、なーんだ。大してキレイでもないわね。てっきり高価な宝石かと思っちゃったわ。まあそれは、アルスが持ってっちゃっていいんじゃないかしら。とりあえず、妙な物が落ちてなくて安心したよ。ありがとうね。」 おばさんに礼を言われたアルスは、とりあえず真珠玉を道具袋に入れると、噴水の方へと歩いて行った。 すると1人の男性が話し掛けてきた。 「いやはや、参りましたよ。ほれ、この町のガケっ淵に住んでるヘンクツ爺さん・・・知ってます?」 「ああ、あのお爺さんですね。知っていますよ。」 「せっかく食べ物を届けてあげたのに、お前とこのはいつもマズイのうなんて言うんですよ。あれじゃ、誰からも相手にされなくなって当たり前ですよねえ。」 男性はブツブツと文句を言っている。 その男性を尻目に、別の男性がキーファの話題を出した。 「さっきキーファ王子らしき人がすごい勢いで町を走り抜けて行ったんだ。一体あんなに慌てて何があったんだろ?」 やはりキーファの話題には事欠かないようで、側にいた老人もつられて語り始めた。 「毎日忙しそうに走り回る王子を見ると、思い出すことがあるのう。わしがお前さんくらいの年の頃、今の王子のように島中を走り回っとったヤツがおった・・・。しかしある日を境にめっきり姿を見せんようになってのう。やっぱりこの島には何もなかったんじゃと皆で噂し合ったんじゃ。そいつは今ヘンピな所に犬と寂しく暮らしておるらしいな。すっかり人嫌いになったと聞くが・・・昔はそんなヤツじゃなかったんじゃぞ。」 (もしかしたらそれはあのお爺さんじゃ?) アルスが老人に想いを巡らせていると、1人の兵士がアルスに近付いて来た。 「やや、これはアルス殿。キーファ王子のご様子がどうも普通ではないんです。しょぼくれていたかと思うと急にそうか!物が違っただけか!などと叫ばれて・・・・・・。いきなり目をキラキラと輝かせ始めて・・・・・・。今度は一体何をやらかしてくれるのか・・・・・・。」 兵士は嘆かわしそうにそう言った。 (キーファ、相変わらずだな・・・。) キーファの噂話の数々を聞きながらアルスはくすっと笑みを浮かべた。 と、突然辺りを裂くような鳴き声がアルスの思考を遮った。 「うえ〜ん。ホンダラさんにキャンディ返せって言ったら、変な石でこづかれたよおーっ。」 (!・・・叔父さんってば、また・・・。) アルスはがっくりと肩を落とした。 「ごめんね、今度おじさんに僕から注意しておくから。」 そう言ってアルスは泣いている少年をなだめるしかなかった。 そして何となく教会へと向かった。 教会へ足を踏み入れると、1人の老人が鬼気迫る表情でアルスの肩を掴んできた。 「わしゃ、恐ろしいぞい!近頃キーファ王子といい、あのホンダラといい、禁断の地に足を踏み入れてるらしいんじゃ。なんぞ恐ろしいことが起きんとええがのう。」 次にアルスが向かったのはよろず屋だった。 「何か探し物かい?そういや王子もわけの分からないことを言ってたな。太陽にまつわる売り物はないかって。で、1つだけ在庫のあったお日様ボール、定価3ゴールドを買ってったが・・・・・・。あんな子ども用のおもちゃボールで、何しようってんだかねえ。」 主人は不思議そうに首を傾げている。 次にアルスは、2階へと上がって行った。 するとオルカが笑いをこらえられないといった感じで、おかしそうに話し掛けてきた。 「ようよう、アルス。さっきお前のオジさんが変なモン売りに来たぜ。妙な石っころ持って来て、2500ゴールドで買わねえかときたもんだ。よろず屋の息子のおいらの目で見ても、ありゃ何の価値もないね。全くお前のオジさんは笑わせてくれるよ、ハハハハハ!」 アルスは恥ずかしさに耐え切れず、よろず屋を飛び出して行った。 |
2006年11月3日更新