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グランエスタードへ辿り着いたアルスは、酒場へと足を向けた。 そこで彼は、見覚えのある男性が女性に切々と自分の気持ちを伝えようとしているのに出くわした。 「なあ、いい加減オレの気持ちを分かってくれよお。ヒック・・・・・・。」 どうやら酔っ払っているようである。 「ほら、こいつをプレゼントするよ。へへへ。触ってみなよ。な!ホカホカとあったかいだろ。名付けてホットストーン!見た目はただの石コロだが、そんじょそこらの石コロとは中身が違うってわけよ。ヒック。まるでオレみたいだよな。へへへ・・・・・・。」 ここでアルスに気付いた伯父、ホンダラは嬉しそうな笑顔を向けた。 「おう!アルスじゃねぇか。丁度いいところに来たな。お前からもこの娘に、オレのミリキってやつを語ってやってくれよ。ヒック・・・。」 しかしアルスは冷ややかな目を向けるだけだった。 「・・・・・・さて、帰るとするか・・・・・・ヒック。」 ホンダラは女性を口説くのを諦めたのか歩きかけたが、アルスの方を振り返った。 「ようアルス。ついでにここの払いも頼んだぜ。エヘヘ。ヒック。」 そういい残すと、呆然とするアルスを置いて伯父はさっさと立ち去ってしまった。 すると先程まで口説かれていたバニーガールが、ため息をつきながらこう洩らした。 「あんなヘンテコな石で私の気を引こうだなんて・・・。安く見られたものね。ハァ・・・。」 その後はホンダラに対する愚痴大会が続いた。 「やれやれ・・・・・・。ボルカノ殿は、ホンダラのことをどう思っとるんじゃろうのう。一発ガツンと言ってやらにゃあいかんとわしは思うぞ。」 と老人が言えば、酒場のマスターがこう続けた。 「やっと帰ったよ。ああ、お代はツケにしておくから心配しなくていいよ、アルス。」 「お前の伯父さん、帰って行ったみたいだな。しかし大の男が昼間から飲んだくれて・・・・・・。全く何を考えてんだか。」 宿屋の主人の言葉を聞くと、アルスは恥ずかしくて仕方がなかった。 町中へ出ると、女性が笑顔で語りかけたきた。 「ようこそ。ここはグランエスタードの城下町よ。さっきからキーファ王子が何度か目の前を通り過ぎて行かれたんだけど・・・こんな小さな島を走り回ってよく飽きないわよね。」 これを聞いたシスターが言葉を続ける。 「それにしてもキーファ王子の熱中ぶりはすごいですわね。きっとああいう方のことを、太陽のような情熱の持ち主・・・というのでしょうけど・・・・・・その折角の情熱も、今はバーンズ国王の頭痛のタネでしかないなんて・・・・・・。」 「クーン、クーン。」 側にいた犬の鳴き声も、心なしか悲しそうである。 井戸の近くでは、老婆とおばさんが井戸端会議に興じていた。 「噂じゃあのホンダラがおかしな石を拾って、それを必死で金に変えようとしとるみたいじゃな。金にならんと分かると、今度はその石をネタに女子を口説いてみたり・・・・・・。ああいう努力を他に向ければ、ちっとはマシな男になれるのに・・・。困ったもんじゃわい。」 確かにその通りだと、アルスは思った。 「はあ、もうそろそろお昼だね。お日様があんなに高く・・・・・・。」 そう言っておばさんが空を見上げた時である。 日の光が反射して、井戸の中がキランと輝きを放った。 「あら?今何か井戸の中で光らなかった?」 「そうですね、僕も光ったような気がします。」 アルスが同意すると、おばさんは先程の光が気になるのかこう続けた。 「何だろうねえ。誰かが何か落としたのかしら。さっき光ったのは何だったのかしら・・・気になるわねえ。」 アルスはそうっと井戸の中を覗き込んだ。 するとおばさんは何を勘違いしたのか、アルスに向かってこう言った。 「そうかいアルス。あんたが調べて来てくれるのかい?それじゃ頼んだよ。気を付けてね。」 こうしてアルスは、成り行きで井戸の中へと降りて行く羽目になってしまった。 |
2005年8月19日更新