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ウエルトの内乱

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「リュナン様、兵士達は逃げて行きましたぞ。」
オイゲンがリュナンに報告した。
「・・・・・・あの少女は?」
「無事、保護致しました。こちらに・・・・・・。」
「大丈夫か?」
リュナンは、先程助けたばかりの少女に向かって心配そうに尋ねた。
「はい・・・・・・ありがとうございました。」
少女はようやく安心したのか、ほっとした様子で答えた。
「彼らはウエルトの兵士達のようだが、何故君達を追っていたんだ?それに君は高貴な家柄のようだが・・・・・・。」
その問いに答えたのは少女ではなく、オイゲンであった。
「リュナン様、まだお気付きになられませぬか。この方はウエルト王国の王女、サーシャ様でございますぞ。」
「サーシャ王女!?」
「はい、お久しぶりです、リュナン様。」
思いもかけない再会であった。
「そうだったのか・・・・・・。すまない、気付かなかった・・・・・・。」
「お会いしたのはもう随分昔のことですもの。忘れておられても仕方ありません。でも・・・・・・私はすぐに分かりました。わずかな間だったけど、リュナン様には優しくして頂きましたから・・・・・・。」
そう言ってサーシャは微笑んだ。
「父上と共にウエルトを訪れたのは、僕がまだ10歳の時だった。幼い王女と遊んだ記憶はあるが、それがまさか君だなんて・・・・・・。すっかり見違えてしまって分からなかった。」
「いや、私は覚えておりましたぞ。」
オイゲンがそう言うと、サーシャはオイゲンの方に顔を向けた。
「あなたは、リュナン様の守り役だった・・・・・・えっと・・・・・・。」
「オイゲンでございます、サーシャお嬢様。」
「そうだわ、オイゲン将軍ね。覚えていてくれてありがとう。」
サーシャは極上の笑顔を見せた。
すると、リュナンがずっと疑問に思っていたことを尋ねた。
「・・・・・・サーシャ王女、事情を聞かせてくれないか。この国はどうなっている?王女である君がどうして追われなければならないんだ?」
「リュナン様はバルト戦役のことをご存知でしょうか?」
サーシャはリュナンの目を見つめながら言った。
「話は聞いている。半年前、バルト要塞を巡って西部諸国同盟と帝国の大きな戦があり、西部同盟の大敗北に終わったと・・・・・・。西部同盟軍を指揮していたロファール王は行方不明になられたとも聞いている。」
「ええ・・・・・・。あの戦以来、お父様の所在は不明です。お父様と共に出陣した諸侯や騎士達もその多くは戦死し、国に戻れたのはほんの一握り。そのために国の治安は乱れ、野心を持つ者達が好き勝手なことをするようになりました。」
「しかし、ウエルトほどの大国がたった一度の敗戦でそれほど乱れるものかな。ロファール王は大陸5賢王の一人に数えられるほどの方だ。国を離れるにあたっては、信頼できる者に留守を託したはずだが。」
「ええ、有力貴族のコッダ伯爵が国の守り託されていました。でも、最近になってコッダ伯爵に野心が芽生え、前宰相が老齢で病に伏せるや自ら宰相となって民に重税を課したり、反対する家臣達を勝手に追放したりとその横暴は日に日にひどくなるばかりで・・・・・・。」
「国王の留守を良いことに王国を我が物にするつもりか。君の母上・・・・・・リーザ王妃はどうされている?」
「コッダの野心に気付いた母は彼を追放してマーロン伯を宰相にと決意され、その命令書を作られたのですが・・・・・・。」
「マーロン伯?」
「東のヴェルジェを領地とする父の臣下の一人です。老齢ゆえにバルト出陣には加えられませんでしたが忠節の志し厚く、国民も慕う立派な方です。父上は出陣にあたり、マーロン伯に宰相を務めるよう求められましたが、伯は『その器にあらず』と固辞され今もまだ、ヴェルジェ砦に引き込まれたままなのです。」
「そうか・・・・・・。それでサーシャがその命令書を携えてヴェルジェに行こうとしているのか。」
「お母様は近衛騎士のケイトに命令書を託されたのですが、もし事が知れた場合に私が人質になることを恐れて、一緒に行くようにと言われました。」
「事情は大体分かった。それなら僕達もヴェルジェに行こう。そのマーロン伯と言われる方に僕もお会いしたい。」
「でもどうしてリュナン様がウエルトに?グラナダで帝国軍と戦っておられることは噂で聞いていましたが・・・・・・。」
「それはまた後で話そう。コッダの増援が来ないうちに、出発した方がいいだろう。」
こうしてラゼリア軍はウエルトの王女サーシャと共に、ヴェルジェへと向かうことになったのだった。

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2006年2月17日更新