第2話

道具屋のノッジと武器防具屋のドルクが、オルテガの家の扉を叩いた。
「お早うございます、奥さん。いよいよ、オルテガさんの旅立ちですね。」
「まあ、ノッジさんにドルクさん、わざわざいらして下さって・・・。」
「いやいや、オレ達にゃ何もできないけど、せめてこれを受け取ってくれ。」
ドルクはかなり立派な作りの兜を差し出した。
「まあ・・・、この兜は?こんな高価なものをいただいても宜しいのですか?」
「遠慮することはないよ、奥さん。オレたちゃ、いつもオルテガさんには大層世話になっているんだからね。
ではこれで失礼させてもらうよ。オルテガさんに宜しく。」
「そんなことおっしゃらずに、是非上がっていって下さいな。」
「いやいや、オルテガさんは旅の支度で忙しいんだろう?それに、家族水入らずのところを邪魔しちゃ悪いからね。」
「本当にありがとうございます。主人もきっと喜びますわ。」
「じゃあ、失礼させてもらいますわ。」

エレンはドルクからもらった兜を大事そうに抱えると、2階へ上がって行った。
隣りの部屋では、息子のアルスがスヤスヤと寝息をたてている。
アルスを優しい目で見守っているのは、祖父のティルガである。

「あなた・・・。」
「エレンか?どうした?」
「これをドルクさんが・・・。」
「おお、これは立派な兜だな。かなり丈夫そうだ。有り難い。」
「ねえ。せめてもう少し、あの子が大人になるまで待てないの?」
「すまない。分かってくれ。オレは少しでも早く、平和を取り戻したいんだ。
皆のためだけじゃない。お前とアルスのためにも。」
わずかな沈黙の後で、エレンは答えた。
「・・・・・・分かってるわ、あなた。ごめんなさい。でも、無茶だけはしないでね。」
「ああ、必ず世界に平和を取り戻して帰って来る。約束だ!」
「待っているわ、あなた。アルスは私が立派に育ててみせます。あなたが帰って来た時、アルスの姿を見てびっくりするくらいにね。」
エレンは夫に向かって微笑んだ。

「のう、アルスよ。お前の父、オルテガが・・・、わしの息子が旅立とうとしておるぞ。お前も父に負けぬような立派な勇者になるのじゃぞ。」
ティルガは、おだやかに眠る孫に向かってつぶやいた。
彼は、これから自分の息子に起こるであろう運命を、どこかで感じ取っていたのかもしれない。

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