第7話
突然辺りの空間が歪んだかと思うと、アルスの目の前に見知らぬ老人が姿を現した。 「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ。道に迷いなされたかな?」 「あの・・・ここは何処なのでしょうか?」 しかし老人はアルスの問いには答えてはくれなかった。 「西、つまり左の方じゃな。その方向に歩いてゆけば、この森を抜けられるはずじゃ。ところで、もし途中で岩があったらここまで押してきてくれんかの。きっと礼はするぞい。」 「岩、ですか?分かりました。見つけたら押してきます。」 「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ、すまんのう。」 アルスが老人に言われた通り西へ向かって歩いて行くと、岩があった。 アルスは来た方向へと戻るように、岩を押して老人の元へと向かった。 「おお、岩があったか!わしは嬉しいぞいっ。ほれ、お礼の10ゴールドじゃ。」 アルスは老人から10ゴールドを手渡された。 「出口は西の方じゃぞ。」 老人の声を背後に聞きながら、アルスは再び西へと向かった。 するとまた岩があるのを見つけた。 (これってやっぱり、持って行った方がいいのかな?) しばし考えたが、アルスは老人の嬉しそうな顔を思い出すと、岩を押して老人の元へと戻って行った。 老人は先程と同じように、とても喜んでくれた。 (良かった。) アルスも自分のことのように嬉しかった。 その後も何度か西へと向かったが、その度に岩を発見し、老人の元へと送り届けた。 もう10回以上は同じことを繰り返しただろうか? (お爺さんには悪いけど、これじゃあいくら時間があっても永遠に森から出られないよね。ごめんなさい。僕は森を出ます。) アルスは心の中で老人に詫びながら、岩を無視して森を出ることを決心した。 あと少しで森の外に出るというところで、再び空間が歪んだ。 気がつくとアルスは、また元の滝の見える崖の上に戻っていた。 再び、全てを包み込むような優しい声が語りかけてきた。 「私は全てを司る者。今、あなたがどういう人なのか分かったような気がします。アルス、あなたは苦労人のようですね。少しくらい辛いことがあっても、なかなかへこたれません。目標に向かって地道にコツコツと努力してゆくタイプです。時々そんな自分が歯がゆくなるかもしれませんが、今のままでかまいません。無理をしてちゃらちゃらした自分を作り、みんなの人気者になったとしても、いつかは疲れてしまいます。今のままのあなたの良さを分かってくれる友人が1人でもいれば、あなたは幸せでしょう。・・・・・・と、これがあなたの性格です。さあ、そろそろ夜が明ける頃。あなたもこの眠りから目覚めることでしょう。私は全てを司る者。いつの日か、あなたに会えることを楽しみに待っています・・・・・・。」 声は徐々に遠ざかり、やがて聞こえなくなった。 アルスの周りの空間が歪んでゆく。 |