第9話

入口では2人の兵士が番をしていたが、アルスのことは話に聴いているらしく、特に咎められることもなくすんなりと通ることができた。
「アリアハンのお城にようこそ!」
1人の兵士が歓迎の言葉を掛けてくれると、もう1人の兵士が得意そうに言った。
「かつて町中を荒らした盗賊バコタも今は牢の中よ。わっはっは。」
豪快に笑っている。
それを聴いた老人が羨ましそうに言った。
「盗賊バコタの作ったカギは簡単なドアを全て開けてしまうそうじゃ。そんなカギがあったら、あんなとことかそんなとこに入れてしまうのう。」
しかし、あんなとことかこんなとことはどんな所なのであろうか?
アルスは気になりながら、王様の元へと歩みを進めていた。
すると、1人の侍女がオロオロと辺りを見回しているのに出くわした。
「お姫様を見ませんでした?お姫様〜。オロオロ・・・・・・。」
お姫様付きの侍女も大変だなと思いつつ、裏庭の方を覗いてみると、お姫様がため息をついていた。
「外は危ないからってお城から出してもらえないの。これって魔王のせいよね。もうイヤ!こんな毎日・・・・・・。この前だってこっそり抜け出そうとしたら、お父様に見つかっちゃって。意外とお父様って抜け目がないのよね。」
お姫様は何不自由ない暮しをしているものだと思っていたが、それなりに苦労があるようだ。
そんなことを考えていると、トントンと肩を叩かれた。
「ようよう!知ってるかい?噂では岬の洞窟からナジミの塔に行けるとか。まっ、確かめたわけじゃないけど、みんなそう言ってるから多分ホントじゃないの?」
「へえー、知りませんでした。面白そうですね。」
「だろ、だろ?あんたも暇があったら行ってみるといいよ。」
男性はニコニコとアルスに向かって手を振った。
2階へと向かう階段の下にはやはり2人の兵士が立っていた。
「王様はこの上におわします。」
「さあ、王様がお待ちかねですぞ。」
アルスは2人にせかされるように2階への階段を急いだ。
階段を登りきると、案内の兵士が立っていた。
「さあ、王様に会いたくば、ずっと奥へ進むが良い。」
「ありがとうございます。」
アルスは礼を言うと、更に奥へと進んで行った。
途中で1人の吟遊詩人らしき男性と出会った。
「お城から西の海伝いを歩くと、岬の洞窟があるそうです。」
先程ナジミの塔に続いていると言っていたあの洞窟のことらしい。
更に進んで行くと、目をキラキラと輝かせてアルスを見つめる女性がいた。
「ああ、勇者様!早く平和な世の中にして下さいませねっ。」
「あの、僕・・・勇者でも何でもないんですが・・・。」
「いいえ、私には分かるわ!オルテガ様の息子ですもの。絶対に勇者になるに違いないわ!」
女性は聞く耳を持たなかった。
「おお、アルス殿!よく参られました。」
兵士達が出迎えてくれた。
「武器や防具は装備をして身に付けるように!持っているだけではダメですぞ!」
「戦いでは前にいる者程、ダメージを受けやすい。仲間達の並び方にも気をお使いなさい。いくらアルス殿が苦労人とはいえ、1人では厳しい戦いになるのですから。」
何だか言っていることがおかしい気がしないでもなかったが、アルスは素直に礼を言った。
「アドバイス、有難うございます。」
最後に大臣が念を押すように言った。
「1人旅は危険すぎる。町の西野ルイーダの酒場で、仲間を見つけるが宜しかろう。」
「はい。」
いよいよ王様との対面を控えて、アルスはやや緊張の面持ちで足を進めた。

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