第19話

こっくり、こっくり・・・・・・。
体を揺らしながら眠っていた老人であったが、アルス達の気配を感じたのかパッと目を開いた。
「!おお、やっと来たようじゃな。」
「僕達が来るのが分かっていたのですか?」
「まあ、そうじゃな。して、名前は何と言う?」
「アルスと申します。」
「そうか、アルスと言うのか。」
そう言って頷くと、老人は言葉を続けた。
「わしは幾度となく、お前にカギを渡す夢を見ていた。何かのお告げなのかもしれん。だからお前にこの盗賊のカギを渡そう。受け取ってくれるな?」
「僕達もカギを求めてやって来たんです。どうもありがとうございます。」
アルスは礼を述べると、老人から盗賊のカギを受け取った。
「ところでアルスよ。この世界にはそなたの性格を変えてしまうほど影響のある本が存在する。もしそのような本を見つけたら、気を付けて読むことじゃな。」
「分かりました。」
「では行くが良い、アルスよ。わしは夢の続きを見るとしよう。」
そう言うなり、老人は再びこっくりこっくりと首を傾け始めた。
「ムニャムニャ・・・・・・。」
既に夢を見ているのだろうか?
何やらしきりに口元を動かしていた。
「あれ?この扉、開かないぞ。」
シリウスが背後の扉をガチャガチャと動かしながら言った。
「さっきのカギで開ければいいんじゃないの?」
「そうか。アルス、試してみてよ。」
「うん。」
アルスは早速盗賊のカギを鍵穴に差し込んでみた。
扉はカチャッという音をたてて開いた。
「やったね!」

アルス達は再び塔を降り始めた。
その行く手をバブルスライムとフロッガーの群れが塞いだ。
「くっ。毒にやられたみたいだ。」
アルスが腕を押さえて呻いた。
「あっ、石がある。」
シリウスはおもむろにその辺に落ちていた石を拾って、お手玉を始めた。
「ちょっと、シリウス!ふざけている場合じゃないでしょ?」
「あっ!」
その時、受け損ねた石がシリウスの足を直撃した。
「いってー。」
「もう!自分ダメージを受けてどうするのよっ!」
しかしその石はフロッガーにも命中し、ダメージを与えた。
「ほら、最初からこれを狙ったんだよ。」
シリウスはにこっと微笑んだが、ルーシアは不機嫌そうな顔でシリウスを睨んだ。
何とかモンスターを撃退した一行であったが、その後のアルスの足取りは重かった。
「大丈夫?アルス。」
ユンが心配そうに声を掛けると、アルスは大丈夫だと言って歩みを続けた。
「すごい汗よ。どうしたらいいのかしら?」
普段は冷静なルーシアも、こればかりはどうしたら良いのか分からないようだった。
「そうだ!ここから飛び降りてみたらどうかな?歩いて降りるよりも、早く出られると思うんだけど。」
「えっ?でも・・・。」
「これくらいの高さなら大丈夫だと思うよ。それにキメラの翼があるから、アリアハンに一発で戻れるしさ。」
「シリウスもたまには真面目なことを言うのね。」
「へへっ。」
「あっ、危ない!」
フロッガー、バブルスライム、じんめんちょうの群れが現れてしまったのである。
「そんな・・・。アルスがこんな状態なのに・・・。」
「マヌーサにかかったわ。」
「ZZZ・・・。」
こんな時にも関わらず、シリウスは眠りこんでしまっていた。
「応急処置でしかないけど・・・。ホイミ!」
ルーシアはアルスに向けてホイミを唱えた。
「たあっ!」
アルスが毒に侵された体を、意志の力で動かした。
「あれ?僕、また寝ちゃったのか・・・。」
「戦闘中よ、シリウス!」
「分かってるって。やあっ!」
「はあ・・・はあ・・・。何とかやっつけたわね。」
「キメラの翼があって良かったわね。」
塔を飛び降りると、アルスはキメラの翼を上空へと放り投げた。

「教会へ行く力は残っている?」
「ごめん、さすがにちょっと。家で休んで行っていいかな?」
「勿論よ。じゃあ、アルスの家に行きましょう。」
「とりあえず様子を見ておこうと思って。」
一行はアルスの家で休んでから教会へと向かった。
「すみませんが、毒の治療をお願いします。」
「どなたの毒を取るのじゃな?」
「僕です。」
「さすれば我が教会に5ゴールドのご寄付を。宜しいですかな?」
「はい。宜しくお願いします。」
「おお神よ、お力を!アルスより毒の穢れを消し去りたまえっ!」
「どうもありがとうございました。すっかり楽になりました。」
「良かったわね、アルス。」
「だいぶお金がたまったから、武器屋へ行こうよ。」
「そうだね。」

「ええっと、ルーシアには銅の剣。僕は皮の盾でいいかな?」
「そうね。棍棒はもういらないから売ってしまいましょう。」
「そう言えば、ナジミの塔の地下1階に入れなかった扉があったよね?」
「行ってみましょうよ。盗賊のカギで扉が開くかもしれないわ。」
「そうだね。」
アルス達はナジミの塔へと向かった。

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