第3話

セティが地下室を出ると、畑仕事をしていたおじさんが声を掛けてきた。

「おや、セティだがや。」

「こんにちは。」

「そろそろ日も暮れるべな。どれ、おいらも家に戻って飯にするべか。」

そう言っておじさんは家へ戻って行った。

井戸の方へ足を向けると、セティの剣の先生が井戸水をおいしそうに飲んでいるのが見えた。

「ぷはーーっ!!おお、セティ。お前も水を飲みに来たのか?今日の剣の稽古は少々荒っぽかったからな。わっはっはっは。」

豪快に笑うと、先生は多少声を潜めて言葉を続けた。

「ところでシンシアとは相変わらず仲がいいみたいだな。つい先日もオレの所に来て、セティをあまりいじめるなだと。まあ確かに最近は稽古が過ぎたかも知れんが、それはそれだけお前も強くなってきたということだぞ。」

セティが井戸の中を覗き込んでみると、井戸のそこにはたっぷりと水がたまっていた。

セティも水を飲むと、先生に別れを告げた。

すると、セティの姿を見かけた男性が声を掛けてきた。

「ややセティ。疲れた顔をしてるな。」

「そうですか?剣の稽古をした後だからかな?」

「そうかい、剣の稽古を・・・・・・。大変そうだけど、くじけるなよ。なんせセティはオレ達の希望なんだから。と言っても、今のお前には何のことだか分からないよな。気にしなくていいぜ。」

その言葉に不審なものを感じながらも、ふと村の外へ出てみたいという欲求にかられたセティは、村の入り口へと足を向けた。

そこには常に平和な村には似つかわしくない、武装した男性が立っていた。

「ここは村の入り口。怪しい奴が入って来ぬよう、見張っているのだ。ところでセティ。村の外へ出たいか?」

「はい。僕は、生まれてから一度も村の外へ出たことがないですから。どんな世界が広がっているのか、興味があります。」

「しかしまだその時ではない。今のお前では、まだまだ力不足なのだよ。」

「外ってそんなに危険なんですか?」

「ああ、外には様々なモンスターが棲みついている。力のない者が出歩くのは危険なんだ。」

「そうですか・・・。 」

セティはがっかりしながら、宿屋へと向かった。

「おや、誰かと思ったらセティさん。いや、ちょっと部屋の掃除をね。といっても、こんな山奥の村に客なんぞ来やしないし、もし来たってまさか泊めるわけには・・・・・・。」

「どうしてですか?」

宿屋の主人がおかしなことを言うので、セティは疑問をぶつけた。

「あ!いえ、そのまあ・・・・・・、昔の習慣ってヤツですな。あはははは・・・・・・。」

何だかごまかされているようであったが、それ以上追求せずに、セティは民家へと向かった。

ここには、セティに呪文の稽古をつけてくれる老人が住んでいた。

「こんにちは。」

「おお、よう来たな、セティよ。今日はそなたにベギラマの呪文を教えてしんぜよう。といきたいところだが、今日はもう日も暮れかけておる。授業はまたの明日にしようぞ。」

「そうですか。ではまた明日伺います。」

セティが家を出ようとすると、大きな寝言が聞こえてきた。

「ぐがー、ぐがー。この村には誰も入れねえぜ!!むにゃむにゃ・・・・・・。」

ベッドに寝ている老人の息子らしかった。

アルスはようやく家に辿り着いた。

「ただいま。」

「あら、お帰りセティ。お腹が空いただろ。今食事にするからね。」

母親は早速食事の支度を始めた。

「おお、戻ったかセティ。今日も一日ご苦労だったな。よし!母さん、そろそろ飯にしよう!もうハラがペコペコだわい。」

父親は食事が待ちきれないようである。

「はいはい。今運びますよ。」

そう言って母親は色とりどりの出来立ての料理をテーブルに並べ始めた。

「さあ、セティ。お前も席にお着き。」

セティは手を洗うと、早速椅子に腰掛けた。

「頂きます!」

「ふむ!これはうまいわい!もぐもぐもぐもぐ・・・・・・。時にセティよ。お前はまだ小さいからこの村しか知らないだろうが・・・・・・。外の世界はとても広いのだ。そしていろんな人達が暮らしておる。お前もやがて大きくなって、この村を離れる時が来るかも知れん。その時、外の世界でお前はどんな人達と出会うのであろうな・・・・・・。」

普段とは違った、しんみりとした様子の夫を見て、母親が明るく言った。

「父さんたら、何を言うかと思ったら!食事中に寂しくなるような話はやめて下さいよ。セティはずっと、私達と一緒に暮らすんですよ。例えどんなことがあってもね!」

「おお、そうだったな!こりゃわしとしたことが・・・・・・。わはっわはっ、わはははは!」

この時のセティにはまだ、村の人間達が時々普段とは違った様子を見せる理由を知るよしもなかった。

物語は、これより始まる・・・・・・。

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