第9話

宿屋には旅の尼が泊まっていた。

「私は旅の尼。神のお告げを受けて旅をしています。やがてこの地のどこかに、神の御心を受けた若者が現れることでしょう。」

尼は不思議な事を言ったが、その時のライアンはその言葉を気にとめることもなかった。

風呂場の前を通りかかると、風呂場には湯気が立ち込めていた。

誰かが風呂に入っているのかもしれない。

そう考えていると、男性がプンプンと怒った様子で言った。

「パンを盗んだ男ば、とっ捕まえたのはおいですたい。ヤツなら、今牢屋に入っておとなしゅうしとっけど、ちぃーとも反省してなかとよ。けしからんことに子供のふりして、牢から出してもらおうとしとるばい。」

変わった口調の男性だった。

2階へ向かうと、暖炉が赤々と燃えていた。

「にゃ〜ん。」

猫が気持ち良さそうに寝転がっている。

ライアンは宿屋で1晩休ませてもらうと、道具屋へと向かった。

「おお、戦士様!うちの息子もいなくなったんだ!一体何者の仕業だ!?子供をさらって、どんな得があるって言うんだよ?」

道具屋の主人はすがるような目でライアンを見つめていた。

「今手がかりを集めているところですので、ご安心下され。王宮からは私の他にも戦士が捜索に向かっておりますゆえ。」

「どうか、お願いします!」

2階への階段を上がって行くと、部屋には本棚があった。

そこにはこの家の家計簿が置かれていて、中を見ると貧しい暮らしぶりが伝わってくるようだった。

(この村はまだ貧しいのだな。)

民家へ向かったライアンは、その家に住んでいる老婆からまた、牢屋に捕まっている男の話を聞いた。

「この村の牢屋にいる人はパンを盗んで捕まったんだけど、記憶をなくしてるようなの。いい大人なのに心だけが子供に逆戻りするなんて、よっぽど怖い目に遭ったんだろうねえ。」

宿屋で聞いた話とは少し違っているようだ。

行方不明の子供達の手がかりを得るため、ライアンは学校へ向かうことにした。

女性教師に追いかけられながら、ぐるぐると走り回っている少女がいた。

「お待ちなさい。待ちなさいったら!ああ、もうっ!誰かその子を捕まえて下さいな。」

「やだよ〜だ!絶対捕まんないもんね!」

(随分と賑やかだな。)

どうやら話を聞くのは無理そうなので、奥の教室へ向かった。

教室のカベには、子供達の絵が掛けられている。

本棚には沢山の本があったが、本の間には校長の日記が挟まっていた。

ライアンは密かに日記を読んでみた。

(子供達は言うことを聞こうとしない。学校や親の目を盗んで村の外へ出て遊びまわってるようだ。)

(やはり、子供達は大人の目をかいくぐって村の外で行動しているようだな。)

ライアンが日記をそっと本棚に戻すと、校長がライアンの姿を見つけて声を掛けてきた。

「これはこれは戦士殿。よくぞ参られた。が、今は授業の最中。詳しい話はまた、夜にでも・・・・・・。」

「そうですね。ではまた後ほど。お邪魔しました。」

そう言ってライアンは教室を後にしようとしたのだが、子供達は物珍しそうにライアンを見つめていた。

「おじちゃん、バトランドのお城から来た戦士様だよね。かっこいいいなあ。僕も大きくなったら、お城の戦士になるんだ。」

少年が目を輝かせながら話し掛けてきた。

ライアンが子供達を捜していることは学校の子供達の耳にも入っているようで、1人の少年がこう言った。

「いなくなった子供?宿屋のププルだろ?うん、知ってるよ。ププルは天使になってお空に飛んで行ったんだ。ホントだよ!」

子供は実に真剣な表情である。

まさか天使になったなど有り得ないことではあったが、子供が嘘を言っているようにも思えなかった。

(うーむ。誠に不思議な話だ。)

ライアンが首をかしげながらそう考えていると、別の少年が怒りの表情を浮かべながら言った。

「もう、うるさいなあ。勉強のジャマしないでよ。」

「これはすまないことをした。勉強の方、頑張って下され。」

ライアンは皆に頭を下げつつ、学校を後にした。

イムルの村にもバトランド同様に井戸があったが、底はバトランドの物よりもずっと広かった。

(もう少し手がかりを当たってみるか。)

ライアンは牢屋にいるという男のことが気になり、地下牢へ向かうことにした。

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