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「きゃーっ。」 買い物を済ませてパンの入った袋を抱えていると突然、女性の悲鳴が聞こえてきた。 (何だろう?) リュートは声のした方へ急いだ。 すると目を背けたくなるような光景が広がっていた。 見渡す限りの血の海である。 何人もの人間が、動かぬ屍となって転がっていた。 「これは・・・。」 思わず胸の前で十字を切った彼の前に、全身を血で染めた少年が姿を現した。 漆黒の闇のような毛髪は、リュートの陽の光をそのまま集めたようなそれとは対照的である。 (彼も怪我を・・・?) 「きゃーっ。」 手当てをしなければと近付こうとすると、少年は悲鳴の主に気を取られたのか、そちらの方へ向きを変えた。 少年の手に握られているナイフが煌いた。 「危ないっ!」 リュートは思わず女性に向かって飛び出していた。 パンが辺りに散らばる。 「つっ。」 少年の刃がリュートの脇腹に傷を付けた。 「きゃーっ。」 再び女性が悲鳴を上げたが、リュートの意識はだんだんと遠のいていった。 目を開けると、そこは見知らぬ場所だった。 「ここ・・・は?」 体を起こそうとすると、脇腹に激痛が走った。 「つっ。」 力が入らずに、再び体が沈み込んだ。 熱があるのだろうか。 全身がひどく熱い。 すると何者かがリュートの体を押さえ込んだ。 辺りは暗く、よく見えない。 やがてその何者かはリュートの脇腹の包帯を外すと、口に含んだワインを傷口に向かって吹き出した。 「痛っ。」 痛みに声を上げたリュートを無視するように、その者は乾いた布を傷口に当てると手際良く包帯を巻き始めた。 「だ・れ・・・?」 わずかに聞こえるくらいの声で尋ねたが、返答が返ってくることはなかった。 そのままリュートは再び眠りに落ちた。 |