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気が付くと、すっかり明るくなっていた。
自由にならない頭を必死で動かして辺りを見回すと、1人の人間の姿が目に入った。
何やらボールのような物を手に、その中身をかき混ぜている。
「あの・・・。」
リュートの呼び掛けに、その人間はこちらを振り返った。
「あ・・・。」
それはあの時、全身血まみれでナイフを握っていた少年であった。
リュートと同じくらいの年頃か、少し上くらいだろうか。
血は洗い落としたのか、綺麗になっていた。
怪我をしている様子も全くない。
(あれは・・・返り血・・・だったの?)
少年はひどく冷たい表情をしていた。
まるで感情など全く持っていないかのように。
リュートは思わず寒気を覚えた。
孤児院で育ったリュートの周りは、優しく明るい表情を持った人間ばかりであった。
このように冷たい表情をした人間には出会ったことがなかった。
しかしリュートにとっては誰にでもわけ隔てなく接することが当たり前であったので、その少年に対しても臆することなく話し掛けた。
「あの、あなたが僕を助けてくれたんですか?どうもありがとうございました。」
「お前は何者だ?」
「え?」
少年はがっしりとリュートの肩を掴んできた。
「リュートって言います。近くの孤児院でお世話になって・・・。」
戸惑いながらもリュートが名前を名乗ると、少年はますます力をこめて肩を掴んできた。
「痛いっ。」
思わず顔をしかめたが、少年が手を離す様子はなかった。
「何故、助けた?俺は・・・。何故、殺せない?」
少年はどこか遠くを見つめているように、うつろな表情で呟いた。
「あの・・・。大丈夫ですか?」
「殺せ・・・。殺せ・・・ない。殺せない!」
そう言うと少年はリュートの肩から手を離し、頭を抱え込んでしまった。
「・・・・・・。」
リュートもどうしたら良いのか分からず、しばらくの間少年を見つめていた。
やがて少年は落ち着きを取り戻したのか、先程かき混ぜていた物をリュートに差し出した。
反対の手をリュートの頭の下に差し入れると、わずかに頭を起こすように傾けた。
ボールの中身を覗いてみると、どろどろとした液体が入っているのが見えた。
「これは?」
「薬だ。よく効く。」
「あ、ありがとうございます。」
リュートはその薬を飲み干すと、少年の名前をまだ聞いていなかったことに気付いた。
「あの、あなたの名前は?」
「ザッツ。」
「ザッツさんですか?ここは一体?」
「俺の隠れ家だ。俺はお前を助けた。もう組織へは戻れない。」
「組織?」
ザッツの言っていることが理解できないリュートは詳しく尋ねようとしたが、ザッツの様子がまたおかしくなった。
「何故、助けた?お前は殺せない。」
うつろな表情でリュートの方を見つめている。
「ザッツ、大丈夫?僕がザッツの分も神様にお祈りしてあげるよ。そうしたらきっと、不安もどこかへ吹き飛んでしまうよ。」
リュートはザッツの両手を握り締めると、穏やかに言った。
「お・祈り?神・・・様?神様とは何だ?」
「神様は、僕達人間を見守っていて下さるんだ。だから僕は毎日お祈りをして、神様に感謝しているんだよ。」
「見守る?感謝?」
リュートはザッツのことを不思議な少年だと思った。
まるで何も知らない子どものようで、しかし傷の手当ての的確さといい、リュートの知らないこともよく知っているようで・・・。
とにかく、これまで出会ったことのないタイプの少年だった。
しかし、自分と同じ年頃のこの少年と友達になりたいと思った。
「ザッツはここに住んでいるんじゃないよね?家はどこなの?」
「・・・組織。しかし、もう組織には戻れない。」
「その組織って何なの?」
「言えない。」
それきりザッツは黙り込んでしまった。
(きっとザッツにとっては、組織っていうのは秘密の場所なんだね。でも戻れないって、どういうことなんだろう?家出をして来てしまったのかな?だったらきっと家の人が心配しているよね。)
そんな心配をしながら、リュートはいつものように神に祈り始めた。
ザッツの不安がなくなるようにと強く願いを込めて・・・。
そんなリュートを、無機質な瞳でザッツは見つめていた。

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