王の怒り

セシルが城門に到着すると門番が急いで開門した。

セシルの到着を待ちわびていた近衛兵長のベイガンが早速出迎える。

「おお、クリスタルを手に入れたのですね。」

ベイガンの嬉しそうな顔とは裏腹に、セシルの返事は重かった。

「・・・・しかしミシディアの人々はまるで無抵抗だった・・・・。」

「何をおっしゃるのです。さあ陛下がお待ちです。」

セシルはベイガンの後からどこか重い足取りで城内へと入って行った。

玉座の間の前へとやって来ると、ベイガンはセシルを振り返って言った。

「セシル殿、しばしお待ち下さい。」

玉座の間へと入って行ったベイガンはこそこそと王に耳打ちするように言った。

「陛下・・・・・・。恐れながらセシルの奴めが陛下に不信を抱いている様子です。」

「まことか!さすがは近衛兵長。よく知らせてくれた!だがクリスタルさえ手に入れば良い。セシルを呼んで参れ。」

「は。」

バロン王の命令に従い、ベイガンは直ちにセシルの元へとやって来た。

「セシル殿、陛下がお呼びです。どうぞ。」

玉座の間にやって来たセシルに王が尋ねた。

「セシル、ご苦労であった。で、クリスタルは?」

「はっ、こちらに。」

セシルはベイガンに水のクリスタルを手渡した。

ベイガンはクリスタルを手に取って確認すると言った。

「本物のようです。」

「そうか!おお、何とまばゆい!下がって良いぞ、セシル!」

王の言葉に従い一度は下がりかけたセシルであったが、意を決したように突然引き返して来た。

「陛下!」

セシルの大きな声に驚きながら、王とベイガンが慌てた様子でセシルの方に顔を向けた。

「な、何じゃ!」

「な、何です!」

2人が声を揃えて叫んだ。

「陛下は一体どういうおつもりです?皆、陛下に不信を抱いております!」

セシルの一言に王は冷たい表情で言った。

「お前を始めとしてか?」

「!けしてそのような・・・・。」

王は声を荒げると、残酷な命令を発した。

「私が何も知らぬとでも思っているか!お前ほどの者が私を信頼してくれぬとはな・・・・。残念だがこれ以上お前に赤い翼を任せてはおけん!今より飛空艇部隊長の任を解く!」

「陛下!」

セシルにとって思ってもみなかった言葉であった。

王の元へと足を踏み出そうとしたセシルは、近衛兵によって遮られてしまった。

「代わって幻獣討伐の任に就けぃ!ミストの谷付近に幻の魔物、幻獣が出没するそうだ。その魔物を倒し、ミストの村へこのボムの指輪を届けるのだ。出発は明日の朝だ!」

セシルは何とかして王の元へ近付こうとしたが、再度、近衛兵に遮られてしまった。

その時である。

1人の騎士の声が辺りに響いた。

「お待ち下さい!」

セシルの親友、カインであった。

「セシルはそんな・・・・。」

しかしセシルもカインも近衛兵に押しやられてしまった。

「カイン。こ奴のことが心配なら、お前もセシルと共に行け!」

「陛下!」

セシルは必死で訴えようとしたが、王の一言は相変わらず冷たかった。

「もう話すことはない!その指輪を持ち、下がるが良い!」

セシルは仕方なくボムの指輪を受け取った。

「陛下!」

セシルの最後の一言が虚しく響く。

無情にもセシルもカインも近衛兵によって、玉座の間より追い出されてしまった。

あの優しかった陛下が何故・・・。

セシルには王の突然の変貌ぶりが理解できなかった。

- 完 -

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