ローザ

セシルは地下牢へと足を向けた。

この地下牢にはミシディアで捕らえられた魔道士達が投獄されていた。

「ミシディアで反抗した魔道士達は、この地下牢に入れておきました。牢屋越しならば話すことができます。」

そう牢番に言われ、セシルはミシディアの魔道士達の元へと近付いて行った。

黒魔道士が叫んでいる。

「お前ら、何も分かっちゃいないんだ!クリスタルは只の宝石なんかじゃない!」

「私達はどうなろうと構いません。しかし、クリスタルだけはミシディアに!」

白魔道士も同じように叫んでいた。

セシルの姿を見るなり、ミシディアの黒魔道士が非難の言葉を発した。

「貴様、あの暗黒騎士!こんなことが許されると思うか!?」

セシルは黙って頭を垂れた。

陛下の命令は絶対とはいえ、自らが招いてしまった事態に後悔するばかりであった。

兵舎を通って、セシルは自室へと向かっていた。

ベッドで眠りについている兵達も皆、ミシディアでの戦闘のことを気にかけていた。

「いてー!そこは魔物にやられた傷が!」

大声で寝言を言っている兵士がいた。

「隊長・・・・。」

ポツリと呟く兵士がいた。

まだ眠りについていない兵士達は、興奮冷めやらぬようである。

「ミシディアでのことは、飲みまくって忘れます・・・・。」

そう言ってヤケになっている兵士がいた。

「『赤い翼』も堕ちたもんですよ!」

「何と後味の悪い任務なんでしょう・・・・。」

「みんな、すまない。僕が陛下に意見できなかったばかりに・・・。」

「そんな!隊長は悪くありませんよ。それに魔物達が襲ってきた時、隊長がいなければ我々はどうなっていたことか・・・。」

「ありがとう。でも僕は・・・。」

そう言ってセシルは兵舎を立ち去った。

セシルの部屋は西の塔3階にあった。

重い足取りで階段を上がって行くと、2階で侍女に出会った。

「ベッドのシーツは取り替えておきました。明朝、出発なさるとか・・・・。今夜はゆっくりお休み下さい。」

そう言い残して次女は立ち去って行った。

自室に辿り着いたセシルは、眠れそうにないと思いながらもベッドに体を横たえた。

今日はやけに時計の音が耳に響く。

「陛下は・・・・どうされたのだ?以前はナイトとしても名を馳せ、優しく強いお方だった。みなしごの僕やカインを、自分の子どものように育ててくれた。ミシディアのクリスタル・・・・。無抵抗な村人から奪ってまで手に入れねばならぬほどの物なのか・・・・。命令とはいえ、あんなことは!」

その時、ローザがそっと部屋に入って来た。

「セシル!」

ローザの声に、セシルはベッドに入ったまま壁の方を向いてしまう。

「何があったの?急にミシディアへ行ったかと思えば、幻獣討伐に行くなんて・・・・。それに戻って来てから変よ。」

「いや、何でもない・・・・。」

「だったらこっちを向いて。」

「僕はミシディアで・・・・罪もない人々からクリスタルを!この暗黒騎士の姿同様、僕の心も・・・・!」

ローザはベッドの側へと近付いて来た。

「・・・・あなたはそんな人じゃないわ。」

「僕は陛下には逆らえない、臆病な暗黒騎士さ・・・・。」

ローザはベッドから離れると、背中を向けた。

「赤い翼のセシルは、そんな弱音は吐かないはずよ!私の好きなセシルは・・・・。」

セシルはローザの方を振り返った。

「明日はミストへ行くんでしょ。あなたにもしものことがあったら、私・・・・。」

そう言って、ローザは俯いてしまった。

セシルはベッドから起き上がると、ローザの元へと近付いて行った。

ローザに励まされ、セシルもようやく普段の落ち着きを取り戻したかに見えた。

セシルはローザに優しく言葉をかけた。

「心配いらないさ。カインも一緒だ・・・・。もう遅い・・・・。君も休むんだ。」

「気をつけてね・・・・!」

そういい残して、ローザは帰って行った。

「ありがとう、ローザ・・・・。だが僕は暗黒騎士。君とは・・・・。

- 完 -

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