バロンの町

旅に出る前にバロンの町で準備をしていくことになった。

しかし町でも王や赤い翼の評判は決して良いものではなかった。

「ミストに手を出してはきっと何かが起こりますよ!」

やはり町の人々も何かを感じているのだ。

「わー、暗黒騎士だ。コワイよお!でもちょっとカッコいいかな。」

子どもはセシルの姿を見て無邪気にはしゃいでいる。

「兵士に暗黒剣を教えるなぞ!王は何を考えておるのじゃ!」

そう言って腹を立てている老人もいた。

「あの建物は一体何だ?」

カインが尋ねると老婆が教えてくれた。

「町の西の建物の扉?ありゃ、お城に通じる地下水路じゃ。今は封鎖されとるがの。」

「あんな所に城に通じる扉があったなんて、知らなかった。」

「俺もだ。しかし封鎖されているとはな。」

「暗黒騎士!」

少年がセシルを指差して叫んだ。

セシルは思わず下を向いてしまう。

「気にするな。」

カインが優しく声を掛けた。

「王様が・・・。」

ボソボソとしゃべっていた女性がセシルとカインに気付き、慌てて言った。

「私、王様の悪口なんて・・・・。そうだ。いい物見せてあげるから!ネッ?」

そう言ってその女性は着ていた上着を脱いで踊ってみせた。

「も、もういいですから。」

セシルは慌ててその場を立ち去った。

「おい、セシル!待てよ!」

カインが追いかけてくる。

「道具屋でポーションを買っていった方がいいだろう。さあ、行くぞ、セシル。」

カインが何事もなかったかのように言った。

「遠出をするならポーション、毒消し、テントをお忘れなく!」

道具屋では店員が声を張り上げている。

「いらっしゃい!どんなご用件で?どれに致しましょう?」

「ポーションを・・・。」

「ありがとうございました。」

宿屋に足を踏み入れると、何やら貼り紙がしてあった。

『踊り子募集!かわいくって踊りのうまい子求む!

バロン宿屋内 酒場マスター』

「酒場の貼り紙か。俺達には関係ないな。」

カインが呟いた。

「お兄ちゃん、何でそんな格好してるの?もしかして悪い人?」

少女がセシルを見上げている。

「違うよ。このお兄ちゃんはバロンの平和を守ってくれる騎士なんだ。」

カインが少女に向かって言い聞かせるように言った。

「ふうん。頑張ってね、お兄ちゃん。」

少女はそう言うとどこかへ行ってしまった。

しかし暗黒騎士にはよほど悪い印象があるのか、皆セシルを恐れているようだった。

その気配を察しているのだろう。

セシルはどこか暗い表情を浮かべてあまり口を開こうとしなかった。

「あ、赤い翼のセシル様!私は何もしてませんわ。税金も納めているし・・・・。」

「僕は何も・・・。」

そう言ってセシルは辛そうな表情を見せた。

(ここには僕の居場所はないんだ。)

「セシル、何を考えている?気にするなと言っただろう?町の人々がこういう反応を示すのは全て、現在の陛下のせいだ。」

「カイン、そんなこと・・・。誰かに聞かれたら・・・。」

「俺はお前が間違っているとは思わない。俺だけはお前の味方であるということを忘れるなよ。」

「ありがとう、カイン。」

カインは自分を力づけようとしてこんな危険な発言をしてくれているのだ。

セシルは胸が熱くなった。

「ちょっと酒でも飲んでいくか。」

カインに誘われ、一息入れていくことにした。

「ワインを2つお願いします。」

そう言ってセシルはカウンターにお金を置いた。

「これはお城の暗黒騎士様。お金?滅相もない。あなたからは取れませんよ!」

「でも・・・。」

「いや、いい。セシル。お言葉に甘えてただでもらうことにしよう。」

「カイン!」

結局カインと酒場の主人に押し切られ、ただでワインを飲むことになってしまった。

「いらっしゃいませ。1泊50ギルですが、お泊りになられますか?」

2人の姿を見て、宿屋の主人が声を掛けてきた。

「いいえ。今は・・・。」

「またお越し下さい。」

「あの、ミストの谷へはどう行ったら良いのかご存知ですか?」

セシルは宿屋にいた男性に尋ねた。

「赤い翼のセシル!ミストの谷なら北西の洞窟を抜けたところです。」

「ありがとうございます。」

セシルとカインはローザの実家にいた。

このところの悪い噂で、ローザの母親もセシルに対して良い印象を持ってはいなかった。

「最近の王様のやり方といったら・・・・。あんたらもよそでひどいことをしてるって言うじゃない。お願いだから、ローザを変なことに巻き込まないでおくれ。」

「ご安心を。僕達はこれからミストへ向かうところです。しばらく戻ってはこられないかもしれません。」

「そうかい。じゃあ、早く行っておくれ。」

セシルとカインはローザの実家を後にした。

- 完 -

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