砂漠の光

「セシルったらやっぱりさっきからおかしいよ。」

リディアの言葉でセシルはハッと我に返った。

「いや、本当に何でもないんだ。この辺りは暑いからちょっと頭がぼーっとしているのかな?」

セシルはリディアに心配をかけまいと、そう言ってごまかした。

「本当?本当に大丈夫?」

「ああ、ごめん。もう少し話を聞いてみようか?」

「うん。」

(いけない、今はローザのことを考えていても仕方がない。)

セシルは気を取り直して、更に情報を入手することにした。

「ここはダムシアン砂漠のオアシスの町、カイポさ。砂漠の中で唯一潤っている所だよ。ゆっくりとくつろいでいきな。」

そんな風に声を掛けてくる男性がいた。

「うん、とってもいい町ね。」

リディアはそう言って微笑んだ。

そんなリディアを見て、女性が声を掛けてきた。

「小さな子を連れて歩くなら、後列にしてあげた方がいいわよ。」

「大丈夫。セシルはいつも私を庇ってくれるから。」

「そう、それなら安心ね。」

「もう少しダムシアンについての情報が聞けるといいいのだが。」

そんな2人にダムシアンのことを話してくれる男女がいた。

「北にある城が、砂漠一体を治めているダムシアン。王子様は、女性のように美しいお姿とお声をしておられるそうだ。」

「ダムシアンの踊り子に志願に来たのに、地下水脈は魔物で一杯で・・・・。見てくれる?私のシンクロナイズド!」

そう言うなり、女性はいきなり水に飛び込んだ。

「すごいすごい!」

リディアは水中で繰り広げられる女性の見事なダンスに歓声を上げた。

「やっぱりダムシアンへ行くには地下水脈を通らないといけないみたいだね。」

「うん。あたし、セシルが一緒だから怖くないよ。」

「じゃあ、武器屋で武器を買ってから行くことにしよう。」

「うん。」

セシル達は武器屋へと向かった。

「いらっしゃい!どんなご用件で?」

「武器を買いたいのですが。」

「どれに致しましょう?」

「うんとね、あたしは弓が得意なの。」

「じゃあこの弓と鉄の矢を頂けますか?」

「はいどうぞ。またのご利用を!」

「そういえば、バロンから来た人がどこかの家にいるって言っていたよね?」

町の外へ出ようとしたセシルに向かって、リディアがポツリと呟いた。

「あ、ああ。」

バロンという言葉にいちいち反応してしまいそうになる自分を制しながら、セシルが答えた。

「バロンってセシルがいたところでしょ?もしかしたら、セシルが知っている人かもしれないよ?行ってみようよ。」

「え?」

「ねっ?」

リディアに手を引っ張られたセシルは、仕方なく足を進めた。

「ここの家かな?まだ行っていないのはここだけだから。」

2人がその家に足を踏み入れると、心配そうな顔をした女性がベッドに寝ている人間を見つめていた。

「バロンから来た娘さんが、村の前で倒れてたんです。かわいそうに、高熱病にやられてうわ言でセシル、セシルと繰り返すだけで・・・・。」

「まさか・・・。」

セシルは慌てて奥のベッドへと向かった。

そしてベッドに寝ている人間に目をやった。

「ローザ!」

引き寄せられるように、ベッドへと近付く。

「・・・・ううん・・・・セシル・・・・死なないで、セシル!」

ローザはそう繰り返すだけで、全く目を開こうとしなかった。

「もしやあんたの知り合いか?」

ベッドの側に腰掛けていた老人が、尋ねてきた。

「はい。」

「砂漠の高熱病には・・・・砂漠の光が特効薬・・・・。この本にはそう書かれておる。」

本棚から取り出した本を開きながら、老人はそう言った。

「高熱病を治すには幻の宝石、砂漠の光が必要なんじゃが、アントリオンという魔物が住む洞窟にあるんじゃ・・・・。」

「その洞窟はどこにあるのですか?」

「ダムシアンの先じゃな。しかし、ダムシアンへ向かうには・・・。」

「地下水脈を通らなければならないのですね。」

「そうじゃ。そこにも魔物がおる。」

「分かりました。僕が砂漠の光を手に入れて来ます。それまでこの子とその女性を、ローザをお願いしても宣しいでしょうか?」

「セシル!」

リディアが叫んだ。

「あたし、セシルと一緒に行くって言ったでしょ?」

「でも危険だ。」

「大丈夫。あたしだって役に立つんだから。」

真剣な目でセシルを見つめてくる。

「分かったよ、一緒に行こう。すみませんが、ローザを頼みます。」

「任せておけ。だが急いでくれよ。」

「はい。」

こうしてセシル達は、ローザの命を救うべく旅立った。

- 完 -

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2005年2月11日更新