- 訪問 -

マーシュは家に辿り着くと、自分と弟の部屋の扉を開け中へと入って行った。

弟のドネッドは車椅子に腰掛けていた。
外は雪が降り始めたようである。
マーシュ 「ドネッド。」
マーシュはドネッドに声を掛けた。
兄のマーシュは金髪であったが、ドネッドはブラウンの髪を持っていた。
ドネッドは兄に気が付くと、車椅子を移動させて近付いて来た。
ドネッド 「お帰り、お兄ちゃん。遅かったね。」
マーシュ 「学校で雪合戦したんだ。あちこちびしょびしょだよ。」
ドネッド 「雪合戦・・・。どうせお兄ちゃん、当てられてばっかなんでしょ。」
マーシュ 「雪に慣れてないだけさ。」
ドネッド 「お兄ちゃん、ちょっと運動オンチだからね。」
そんなことを話していると、母親の呼ぶ声が聞こえてきた。
母親 「マーシュ、お友達よ。」
マーシュ 「上がってもらって。」
ドネッド 「お友達?呼んだの?」
マーシュ 「面白い本を見つけたって言うから、持って来てもらうことにしたんだ。ドネッド、本、好きだろ?よく読んでるじゃない。」
ドネッド 「病院だと本とゲームくらいしかやることがないだけだよ。」
やがてトントントンッとノックの音が聞こえて扉が開いた。
リッツ 「お邪魔しまーす。」
リッツとミュートが部屋に入って来る。
リッツ 「こんにちは。あなたがドネッド?あたし、リッツって言うの。お兄さんのクラスメートよ。こっちはミュート。宜しくね。」
リッツが紹介すると、ミュートは黙って会釈をした。
ドネッド 「ヨロシク。」
マーシュ 「ミュート、本は?」
マーシュに促されたミュートは、早速買って来たばかりの本を取り出した。
ミュート 「これだよ。古本屋のおじさんも、この本の題名を知らないんだって。」
マーシュ 「へぇ・・・・・・。思ったよりずっと古いんだね・・・。さ、ここに広げてよ。ドネッドも見えるよな?」
3人は座ると、本を床に広げた。
マーシュ 「・・・何が書いてあるのか、さっぱり分からないや。この言葉って魔法の呪文かな?」
リッツ 「あながちウソじゃないかも。だってこれって魔方陣でしょ?元はラテン語なのかしら。書き直しがあるわね。後から訳を付け足したのね。」
ミュート 「・・・アルタ・オロン。ソンドス・カミーラ。・・・ほんとに魔法みたい。」
ドネッド 「魔法っていいなぁ。ボクも使えたらいいのに。」
マーシュ 「ドネッドも、気に入ったみたいだね。」
ドネッド 「魔法が使えたらさ、お兄ちゃんだってもっと運動うまくできるよ。」
マーシュ 「ヘンなこと言うなよ!」
ドネッド 「あはは、本当のことじゃん。」
ドネッドが笑うと、リッツとミュートもつられて笑った。
ミュート 「・・・でもね、本を読んでるとよく考えるんだ。本の世界が現実だったら、って。」
リッツ 「あたしはイヤね、本なんて。だって『パターン』が決まっているんだもん。
マーシュ 「リッツだったら何がいいの?まさかマンガって言わないよね。」
リッツ 「あたしだったらゲームかな。強いモンスター相手に剣で戦うの。どう、面白いと思わない?」
マーシュ 「どんなゲーム?」
リッツ 「そうね、どんなのがいいかしら。」
ミュート 「『ファイナルファンタジー』。ボクならそうする。」
リッツ 「結構時間経っちゃったわね。そろそろ、おいとましようかな。」
リッツの声を合図に、マーシュは本を閉じた。
ミュートが本をしまうと、3人は立ち上がった。
ミュート 「ボクも帰るよ。じゃあね、マーシュ。明日また学校で。」
リッツ 「マーシュ、ミュート。今日は楽しかったわ。ドネッドも、またね。」
ドネッド 「バイバイ、リッツおねーちゃん。」
マーシュ 「そこまで送るよ。ドネッド、ちょっと外へ行って来るね。」
3人は外へ出て行った。
ドネッド 「魔法、使えたらなぁ・・・。」
1人残されたドネッドは、そう呟いた。
母親 「ドネッド!お薬の時間よ。ちゃんと飲まなきゃダメよ!」
ドネッド 「分かってるよ、ママ!」
母親に呼ばれたドネッドは、部屋を出て行った。

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