- 訪問 -
マーシュは家に辿り着くと、自分と弟の部屋の扉を開け中へと入って行った。 |
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弟のドネッドは車椅子に腰掛けていた。 | |
外は雪が降り始めたようである。 | |
「ドネッド。」 | |
マーシュはドネッドに声を掛けた。 | |
兄のマーシュは金髪であったが、ドネッドはブラウンの髪を持っていた。 | |
ドネッドは兄に気が付くと、車椅子を移動させて近付いて来た。 | |
「お帰り、お兄ちゃん。遅かったね。」 | |
「学校で雪合戦したんだ。あちこちびしょびしょだよ。」 | |
「雪合戦・・・。どうせお兄ちゃん、当てられてばっかなんでしょ。」 | |
「雪に慣れてないだけさ。」 | |
「お兄ちゃん、ちょっと運動オンチだからね。」 | |
そんなことを話していると、母親の呼ぶ声が聞こえてきた。 | |
母親 | 「マーシュ、お友達よ。」 |
「上がってもらって。」 | |
「お友達?呼んだの?」 | |
「面白い本を見つけたって言うから、持って来てもらうことにしたんだ。ドネッド、本、好きだろ?よく読んでるじゃない。」 | |
「病院だと本とゲームくらいしかやることがないだけだよ。」 | |
やがてトントントンッとノックの音が聞こえて扉が開いた。 | |
「お邪魔しまーす。」 | |
リッツとミュートが部屋に入って来る。 | |
「こんにちは。あなたがドネッド?あたし、リッツって言うの。お兄さんのクラスメートよ。こっちはミュート。宜しくね。」 | |
リッツが紹介すると、ミュートは黙って会釈をした。 | |
「ヨロシク。」 | |
「ミュート、本は?」 | |
マーシュに促されたミュートは、早速買って来たばかりの本を取り出した。 | |
「これだよ。古本屋のおじさんも、この本の題名を知らないんだって。」 | |
「へぇ・・・・・・。思ったよりずっと古いんだね・・・。さ、ここに広げてよ。ドネッドも見えるよな?」 | |
3人は座ると、本を床に広げた。 | |
「・・・何が書いてあるのか、さっぱり分からないや。この言葉って魔法の呪文かな?」 | |
「あながちウソじゃないかも。だってこれって魔方陣でしょ?元はラテン語なのかしら。書き直しがあるわね。後から訳を付け足したのね。」 | |
「・・・アルタ・オロン。ソンドス・カミーラ。・・・ほんとに魔法みたい。」 | |
「魔法っていいなぁ。ボクも使えたらいいのに。」 | |
「ドネッドも、気に入ったみたいだね。」 | |
「魔法が使えたらさ、お兄ちゃんだってもっと運動うまくできるよ。」 | |
「ヘンなこと言うなよ!」 | |
「あはは、本当のことじゃん。」 | |
ドネッドが笑うと、リッツとミュートもつられて笑った。 | |
「・・・でもね、本を読んでるとよく考えるんだ。本の世界が現実だったら、って。」 | |
「あたしはイヤね、本なんて。だって『パターン』が決まっているんだもん。 | |
「リッツだったら何がいいの?まさかマンガって言わないよね。」 | |
「あたしだったらゲームかな。強いモンスター相手に剣で戦うの。どう、面白いと思わない?」 | |
「どんなゲーム?」 | |
「そうね、どんなのがいいかしら。」 | |
「『ファイナルファンタジー』。ボクならそうする。」 | |
「結構時間経っちゃったわね。そろそろ、おいとましようかな。」 | |
リッツの声を合図に、マーシュは本を閉じた。 | |
ミュートが本をしまうと、3人は立ち上がった。 | |
「ボクも帰るよ。じゃあね、マーシュ。明日また学校で。」 | |
「マーシュ、ミュート。今日は楽しかったわ。ドネッドも、またね。」 | |
「バイバイ、リッツおねーちゃん。」 | |
「そこまで送るよ。ドネッド、ちょっと外へ行って来るね。」 | |
3人は外へ出て行った。 | |
「魔法、使えたらなぁ・・・。」 | |
1人残されたドネッドは、そう呟いた。 | |
母親 | 「ドネッド!お薬の時間よ。ちゃんと飲まなきゃダメよ!」 |
「分かってるよ、ママ!」 | |
母親に呼ばれたドネッドは、部屋を出て行った。 |