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「ねこしゃん、もうだいじょぶだよ。おとうちゃまがたしゅけてくれからねー。」 次の日の朝早く、目を覚ました亜人に向かってラムザは優しく声を掛けた。 「ここ・・・どこ?」 ラムザと同じくらいの年頃の少年の亜人は、辺りをキョロキョロと見回しながら、不安そうに尋ねた。 「んっとねー、ぼくのおうちなのー。いたいのいたいのとんでけなのー。」 ラムザは亜人の傷口の近くで必死に手を振っていた。 彼なりのおまじないなのだろう。 「ぼくね、らむざなのー。ねこしゃんのおなまえは?」 「僕は・・・ディリータ。」 年の割にはしっかりした少年のようである。 自分の体に包帯が巻かれているのを見て、ディリータはラムザにお礼を述べた。 「助けてくれたの?ありがとう。」 「いいのー。ねこしゃんだいちゅきなのー。ぼくとおともだちになってね。」 そう言ってラムザは、にっこりと微笑んだ。 「気がついたか?」 バルバネスが扉を開けて入ってきた。 「あの・・・。」 ディリータの耳が不安そうに後ろに傾いていく。 「ああ、私はその子の父親だ。かわいそうに。きっといじめられていたんだね。私の2番目の妻も亜人だったんだ。だから心配することはないよ。」 その言葉にほっとしたように、ディリータは耳をわずかに立てた。 「君の名前は何と言うんだね?」 「ディリータです。」 「見ればまだ幼いようだが、ご両親はどうしたんだい?」 「お父さんとお母さんはいません。人間に殺されました。」 「・・・そうか、それはすまないことを聞いてしまったね。もし良かったら、ここで暮らす気はないだろうか?人間のことは、よく思ってはいないとは思うが・・・。」 「らむざといっちょにあちょぼうよー。」 ラムザがディリータの腕を掴んで引っ張った。 「痛っ・・・。」 ディリータが顔をしかめると、ラムザは途端に泣き顔になってしまった。 「いたい?ごめっ、ふえっ。」 「ラムザ、ディリータは怪我をしているから優しくしてあげないと駄目だよ。遊ぶのは、怪我が治ってからにしなさい。」 「うん。いたいいたいごめんね・・・。」 こうしてディリータはベオルブ家で一緒に暮らすことになったのだった。 ラムザとディリータは同じ年齢であったが、ラムザは同じ年の子ども達と比べても幼くて体も小さかった。 一方ディリータは逆に3歳とは思えない程しっかりしており、体も大きめだった。 亜人の血がそうさせているのだろうか? ラムザはディリータを実の兄のように慕い、いつもディリータの後を付いてまわっていた。 ディリータには人間不信なところがあったが、ラムザと1つ年下の妹アルマ、そしてバルバネスにだけは徐々にではあるが心を開いていった。 「りーた、ちょこぼ、みにいこうなのー。」 ラムザはいつものようにディリータを遊びに誘っていた。 「まって、らむざおにいたん。あるまもいくー。」 ディリータに対するラムザのように、アルマはラムザの後をよく付いてまわっていた。 「じゃあ、アルマも一緒に行こうか?」 「うんっ。」 こうして3人はいつものように、近くのマンダリア平原へと足を運ぶことになった。 「いってきまーちゅ。」 「気を付けて行って来るんだぞ。暗くならないうちに帰って来なさい。」 「はーい!」 「ふうん。りーたにもいもうとがいるの?」 「うん。でもお父さんとお母さんが殺された時に、離れ離れになってしまって今はどこにいるのか分からない。」 するとラムザは背伸びをして、ディリータの頭に手を伸ばそうとした。 それを察したディリータは少し屈んで頭を低くした。 「りーた、かわいそうなのー。いもうと、みちゅかるといいねー。」 そう言ってラムザは、ディリータの頭をいい子いい子というように撫でた。 「いもうとのおなまえはなんてゆーの?」 「ティータ。アルマと同じ年だよ。」 「いーた?」 ラムザは舌ったらずで、ディリータの名前もティータの名前もうまく発音できないようであった。 「そうだよ。」 ディリータはそれをよく理解していたので、あえて訂正せずに聞き流すことにした。 「あっ、ちょこぼがたくさんいるー。」 アルマが声を上げた。 「うっわー。ちゅごいねー。」 ラムザもつられて歓声を上げた。 ところが、そんな彼らを不審そうな目で見つめている者があった。 |