3

「ねこしゃん、もうだいじょぶだよ。おとうちゃまがたしゅけてくれからねー。」
次の日の朝早く、目を覚ました亜人に向かってラムザは優しく声を掛けた。
「ここ・・・どこ?」
ラムザと同じくらいの年頃の少年の亜人は、辺りをキョロキョロと見回しながら、不安そうに尋ねた。
「んっとねー、ぼくのおうちなのー。いたいのいたいのとんでけなのー。」
ラムザは亜人の傷口の近くで必死に手を振っていた。
彼なりのおまじないなのだろう。
「ぼくね、らむざなのー。ねこしゃんのおなまえは?」
「僕は・・・ディリータ。」
年の割にはしっかりした少年のようである。
自分の体に包帯が巻かれているのを見て、ディリータはラムザにお礼を述べた。
「助けてくれたの?ありがとう。」
「いいのー。ねこしゃんだいちゅきなのー。ぼくとおともだちになってね。」
そう言ってラムザは、にっこりと微笑んだ。

「気がついたか?」
バルバネスが扉を開けて入ってきた。
「あの・・・。」
ディリータの耳が不安そうに後ろに傾いていく。
「ああ、私はその子の父親だ。かわいそうに。きっといじめられていたんだね。私の2番目の妻も亜人だったんだ。だから心配することはないよ。」
その言葉にほっとしたように、ディリータは耳をわずかに立てた。
「君の名前は何と言うんだね?」
「ディリータです。」
「見ればまだ幼いようだが、ご両親はどうしたんだい?」
「お父さんとお母さんはいません。人間に殺されました。」
「・・・そうか、それはすまないことを聞いてしまったね。もし良かったら、ここで暮らす気はないだろうか?人間のことは、よく思ってはいないとは思うが・・・。」
「らむざといっちょにあちょぼうよー。」
ラムザがディリータの腕を掴んで引っ張った。
「痛っ・・・。」
ディリータが顔をしかめると、ラムザは途端に泣き顔になってしまった。
「いたい?ごめっ、ふえっ。」
「ラムザ、ディリータは怪我をしているから優しくしてあげないと駄目だよ。遊ぶのは、怪我が治ってからにしなさい。」
「うん。いたいいたいごめんね・・・。」
こうしてディリータはベオルブ家で一緒に暮らすことになったのだった。

ラムザとディリータは同じ年齢であったが、ラムザは同じ年の子ども達と比べても幼くて体も小さかった。
一方ディリータは逆に3歳とは思えない程しっかりしており、体も大きめだった。
亜人の血がそうさせているのだろうか?
ラムザはディリータを実の兄のように慕い、いつもディリータの後を付いてまわっていた。
ディリータには人間不信なところがあったが、ラムザと1つ年下の妹アルマ、そしてバルバネスにだけは徐々にではあるが心を開いていった。
「りーた、ちょこぼ、みにいこうなのー。」
ラムザはいつものようにディリータを遊びに誘っていた。
「まって、らむざおにいたん。あるまもいくー。」
ディリータに対するラムザのように、アルマはラムザの後をよく付いてまわっていた。
「じゃあ、アルマも一緒に行こうか?」
「うんっ。」
こうして3人はいつものように、近くのマンダリア平原へと足を運ぶことになった。
「いってきまーちゅ。」
「気を付けて行って来るんだぞ。暗くならないうちに帰って来なさい。」
「はーい!」

「ふうん。りーたにもいもうとがいるの?」
「うん。でもお父さんとお母さんが殺された時に、離れ離れになってしまって今はどこにいるのか分からない。」
するとラムザは背伸びをして、ディリータの頭に手を伸ばそうとした。
それを察したディリータは少し屈んで頭を低くした。
「りーた、かわいそうなのー。いもうと、みちゅかるといいねー。」
そう言ってラムザは、ディリータの頭をいい子いい子というように撫でた。
「いもうとのおなまえはなんてゆーの?」
「ティータ。アルマと同じ年だよ。」
「いーた?」
ラムザは舌ったらずで、ディリータの名前もティータの名前もうまく発音できないようであった。
「そうだよ。」
ディリータはそれをよく理解していたので、あえて訂正せずに聞き流すことにした。
「あっ、ちょこぼがたくさんいるー。」
アルマが声を上げた。
「うっわー。ちゅごいねー。」
ラムザもつられて歓声を上げた。
ところが、そんな彼らを不審そうな目で見つめている者があった。

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