ソニア・シューレン
夜が明けた。 小鳥達が楽しそうにさえずっている声が聞こえてくる。 グレミオがシバの部屋へと入って来ると、誘われるようにシバが目を覚ました。 「おや、起こしてしまいましたかね。お早うございます。坊っちゃん。坊っちゃんが眠っている間に、テオ様はもう旅立たれましたよ。坊っちゃんが寝坊だから・・・。さて、今日から坊っちゃんも帝国の一員として、頑張らなければいけません。そろそろ支度をして、クレイズ様の所へ行きましょう。」 起き上がってベッドから降りるシバ。 「坊っちゃんは毎日日記をつけているんですよね。」 「うん。小さい頃からつけているから・・・。」 「そういえば昔は絵日記を見せてくれていましたよねぇ。」 「今はもうつけていないよ。」 「そうですねー。坊っちゃんももうこんなに大きくなったんですからねぇ。」 感極まったのか、涙ぐむグレミオであった。 2人が階下へ降りて行くと、パーンとクレオが待ち構えていた。 「・・・だから次の休みの日に・・・。おっ、来た来た。遅いですよ坊っちゃん。今日は坊っちゃんの初仕事、腕が鳴りますね。ウワサの清風山の山賊退治か、トラン湖の化け物退治か、まあ、何にしてもこのパーンにお任せあれ。」 「調子にのるんじゃないよ。あんたは暴れることしか頭にないんだから。私達の仕事は坊っちゃんを守ることなんだよ。」 「勿論分かってるって。さあ早くお城へ行きましょうや。」 「あっ、テッドを迎えに行かなきゃ。」 部屋へ行ってみると、テッドはぐっすりと眠っていた。 「え、うーん、んんん、もうちょっとだけ寝かせといてくれよ。」 「しょうがないなあ。じゃあ先に行ってるよ。」 シバ達が家を出ようとした正にその時・・・。 「おーーい、待ってくれよシバ。ひどいな、俺を置いて行く気かい?このテッドがいなけりゃ寂しいってもんだ。そうだろシバ?」 「ったく、調子のいい奴だなー。」 パーンが呆れたように言う。 「ん?」 「はははははっ。」 「なあ、シバ。町に寄ってから行こうぜ。いいだろ?な?」 「テッド君。まずはクレイズ様の所へ向かわなければ・・・。」 「グレミオ、まだ時間は早いし、ちょっとソニア将軍の所へ挨拶に行かないか?」 「坊っちゃんまでそんなことを〜。」 「まあまあグレミオ。確かにまだ早いし、ソニア将軍には私も会っておきたい。」 「分かりました。クレオがそう言うんなら・・・。少しだけですからね、坊っちゃん。」 「さすがはグレミオさんだなー。」 心底嬉しそうなテッドであった。 ソニアの屋敷へやって来ると、メイドが出迎えた。 「テオ様が北方へ行くと分かってから、ソニア様はすっかりお元気をなくされて・・。」 「やっぱりなー。ソニア将軍はテオ様を慕っていたからなあ。」 シバからテオの話を聞いた将軍ソニア・シューレンは、やややつれた表情であった。 「そうか。テオ様は、もう北へ向かわれたか。できることならば、この私も・・。しかし、私にも帝国将軍としての責任がある。シバ、時折は私の家に寄ってくれるか。お前の顔を見ていると慰められる。」 「はい。ソニア様さえ宜しければ、伺わせて頂きます。」 「ありがとう、シバ。」 その晩、ソニアの書いた日記にはこう綴られていた。 『テオ様は、もう北方へと旅立たれた。昨晩はひとときではあったが、あの人と過ごせたことを、嬉しく思う。』 |