ミルイヒ・オッペンハイマー

シバ達は宿屋の2階への階段を登って行った。

泊まり客はグレッグミンスターについてそれぞれの思いを語ってくれた。

「何が帝都だよ!あんなに税金を取り立てて、自分達だけいい思いをして!」

「帝都グレッグミンスターか、俺の育ったあの貧しい村と比べたら別世界だな・・。」

中にはこんなことを言っている客もいたのであるが・・・。

「よお、どうだい、一緒に旅に出ないか?旅はいいぞぉ。見たこともない景色、新しい友との出会い、そしてロマンス。そうだ、俺と一緒に旅に出よう。そこで・・・・旅の宿代を払ってくれると嬉しいんだけどなぁ。」

「お金が足りないんですか?」

「ほ、本当に払ってくれるのか?」

「駄目ですよ、坊っちゃん。行きますよ。」

「あ〜あ、残念だなあ。」

ガックリとうな垂れる宿泊客であった。

「ねえ、僕、マリーの所に行って来るね。」

一足先に階段を降りて行くシバ。

「おやおや、こんな所に何の用だい?休むんならお家に帰りな。それとも帰れない理由でもあるの?また、グレミオにいたずらでもしたんじゃないのかい?」

「ち、違うよマリー。グレミオも一緒なんだ。」

「ああ、そうなのかい?」

「あっ、マリーさんこんにちは。」

「おや、ほんとだ。グレミオもいたんだね。」

「どうしたんですか?」

「いやねえ、こんな所に突然1人でシバがやって来たもんだから、グレミオにいたずらでもしたんじゃないかってさあ。」

「ははははは、マリーさんは坊っちゃんのことをよく分かってますねえ。」

「グレミオ〜。」

「そりゃあねえ、シバが生まれた頃から見てきているからね。」

「じゃ、じゃあね、マリー。また来るよ。」

逃げ出すように慌てて宿を出るシバであった。

町中では田舎から出て来たらしい男性がキョロキョロと辺りを見回していた。

「ふぁぁぁ、ここが帝都グレッグミンスターかぁぁ。おらの田舎とは大違いだなぁ。」

それを聞いた別の男性が言う。

「ちっ、この帝都も田舎者がうろつくようになっちゃあおしまいだよな。なあ、そう思うだろ?」

「別にいいんじゃないですか?色々な所の人の話が聞けるのは楽しいですし。」

ニコニコしながら答えるシバ。

「ちぇっ、何だよ!」

シバ達はとある民家を訪れた。

「うっわー。辛そうなシチューがあるぜ。この匂いったらよぉ。」

「よしなよ、パーン。」

クレオがたしなめる。

「はいはい。」

民家の男性はパーンの声が聞こえなかったのか、親切に教えてくれた。

「いーこと教えてやるぜ。お前、封印球って知ってるかい?そいつはスゲー力を持ってるんだ。」

「そうみたいですね。残念ながら僕は持っていないんですが・・・。」

「そうかい。それは残念だったな。」

「じゃあ次はミルイヒ将軍の家に行ってみようよ。」

「ぼ、坊っちゃ〜〜〜〜〜ん。本当に行くんですかぁ?」

「シバも物好きだよなあ。」

ポカッ!

「あいてっ!」

「坊っちゃんの仰ることなんだ。嫌なら待ってな。」

「分かったよー。」

渋々とついて来るパーン。

テッドはあまりにもすごいセンスの家を見上げながらシバに話し掛ける。

「いつ来てもすごい家だよねえ、シバ。」

「本当に大きな家だよね。」

(やっぱり坊っちゃんって天然か?)

パーンは今度はクレオに小突かれないように心の中で考えるだけにした。

「こんなにいっぱいタンスがあって何処に何が入っているか分かるのかなあ?」

そこ召使いが話し掛けてきた。

「ああ、マクドール将軍の・・・・。いらっしゃいませ。」

「ちょっと聞きたいんですけど、このタンスの中には何入っているんですか?全部洋服なんですか?」

「テッド君、失礼ですよ。」

「本当に知りたいんですか?」

「はい。」

「じゃあよーく聞いていて下さいね。行きますよ。」

スーッと息を大きく吸い込む召使い。

(ごくっ・・・)

何故か唾を飲み込むパーン。

「オレンジ色のぴったりタイツに7色パンタロン、グリーンの吊りズボン、縁取りされた真っ赤なマント、ラメ入りのタキシード、羽根付きの巨大な帽子、花柄プリントのシャツ、豹柄のマント、ピンクのブーツ、チェックのベレー帽、果物マークのネクタイ、サファイアを散りばめた豪華な毛皮のマント、そして鋲、トゲトゲ、安全ピン付き皮ジャケット、ボンボン付きの三角帽子、ネグリジェ、ラッコのプリントのTシャツ、ストライプのスラックス、透け透けボディスーツ、スイカ模様のサマーセーター、黄金のバタフライが刺繍されたカーキ色の乗馬ズボン、孔雀の羽根をあしらった上品なパーティドレス、とっても長い手編みのマフラー、黒地に赤の入ったハーフコート、、ペパーミントグリーンのブレザーです。」

ふうっと息を吐く召使い。

「おえ〜っ、想像しただけで気持ち悪ぃ。」

「すごいですね〜。それを全部覚えているのもすごいです。」

「あ、ありがとうございます。シバ様。」

そう言って時計を見る召使いであったが・・・。

「あっ、いっけない。早くしないと、謁見の時間に遅れるというのに、ミルイヒ様は何をなさっているんだろう。ミルイヒ様ーーーー!時間ですよーーー!」

シバ達が2階のミルイヒの部屋へ行ってみると・・・。

「うーーむ、こっちの服も捨て難いと思いますが、しかし、色合いはこちらが・・・。坊っちゃん、君はどっちが良いと思いますか?ん?誰かと思えば、テオの所の・・、そうそうシバ君ですね。皇帝陛下に呼び出されんましてねぇ、やはり、皇帝陛下には私の素晴らしいファッションをお見せしないといけませんから。」

「あのー、もう時間みたいですよ。」

「うーむ、困りましたねえ。まだ着て行く服が決まっていないというのに・・・。」

「ミルイヒ様ーーー!」

「あの、僕達先にお城の方へ行っていますね。」

シバ達は一足先城へと向かった。

「ミルイヒ様ーーーーーーー!」

シバ達が立ち去った後も、召使いの声が虚しく響いていた。

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