貧富の差
「この辺は随分とすさんだ感じだな。」 パーンが辺りを見回しながら言った。 「そうですね。グレッグミンスターのように大きな町ではありませんし。」 グレミオが同意した。 「こんな暮らしをしている人達がいるなんて、僕は知らなかった。」 シバが辛そうな顔をしながら言った。 「こういった人々の暮らしを知るということも、坊っちゃんには必要なことなのですよ。辛いでしょうが、現実から目を背けてはいけません。」 クレオになだめられ、シバは頷いた。 「うん。分かったよ、クレオ。僕にも何かできることがあればいいのだけれど。」 「現状では難しいですね。とりあえず今は、仕事を済ませることが先ですね。」 「でも、こんな生活をしている人々から税金を取るなんて。」 「仕方ないですよ。税金を払うのは当たり前なんだから。」 パーンは当然のように言ったが、シバにはどこか納得のいかないものがあった。 「・・・・お兄チャン・・・お兄チャンは帝国軍の人なの?」 ふと、シバの洋服の裾を掴んできた少年がいた。 「違うよね?だってお兄チャンは僕をぶたないじゃない。」 「帝国の軍人は君のことをぶったりするのかい?」 「うん。」 「何てひどいことを・・・。」 「全く、軍人の風上にもおけませんね。」 自分が知らないだけで、実は他にもひどい目に遭っている人達がいるのではないか? シバは改めて、自分の無知さを思い知らされた気持ちだった。 でも先程クレオが言った通り、今の自分の力では何もすることができない。 シバは自分の無力さを思い知らされていた。 「ねぇねぇ、私見たんだよ。本当よ。」 シバが考え込んでいると、そう言って叫ぶ少女の声が耳に届いた。 「山賊達がね、東の清風山へ戻って行ったの。あそこに隠れているのよ。」 「ここには山賊も出るのか?」 「治安があまり良いとは言えませんね。」 「お墓がある。」 「山賊にやられたんですかね?」 「行ってみよう。」 シバ達がお墓の方へと歩いていくと、近くには結構深い井戸があった。 「『立ち入り禁止』と書かれていますね。」 「いや、よく見ろ!『立ち話禁止』だと!」 「本当ですね。」 「立ち話くらいいいだろうに。」 「そんなことまで制限されているんだろうか?」 「いや、意外と長話をしているやつが多くて邪魔だとかじゃねえのか?」 そんな話をしながら、シバ達はお墓へと辿り着いた。 「悩める男の墓か・・・。『孤独とはゆっくりと、しかし確実に死に至る毒薬だ。』随分と哲学的だな。」 「これは農夫の墓ね。『柔らかな陽射しさえあれば、俺は何でも育てることができたよ。』何だか素敵ね。」 「これは詩人の墓ですね。『僕がここに生きた証にここに歌を残そう。それが僕の墓標になるだろう。』でも肝心の歌がかすれていて読めないですね。残念です。」 「これは何だ?行き倒れの女の最後の言葉?『クライブ。お前の手にかかることなく、死んで行くのを許してくれ。』このクライブとかいうやつの手にかかって死にたかったのか?この女は・・・。」 「何か事情があったのでしょうね。」 「坊っちゃん、こちらにも民家がありますが寄って行きますか?」 「うん。見て行きたい。」 「では行きましょう。」 民家に足を踏み入れたシバは、またもや生活のひどさを目の当たりにした。 「お腹・・・空いたよ。とっても・・・・。」 子どもが元気なく床に座り込んでいる。 「働いても、働いても、暮らしは厳しくなるばかり。それというのもあのグレ・・、おっとっと、危ない危ない。何でもありませんよ。ほほほほほほ・・・。」 母親は何か言いかけてやめ、それきり口を開こうとはしなかった。 「何年も前に皇帝が変わったらしいが、こんな田舎町じゃ誰が皇帝になっても変わりゃしないね。」 父親は諦めきったような顔で言った。 別の民家では、入る早々女性に怒鳴られてしまった。 「何だい?あんたらは・・。食いもんならないよ!!あいつらが、作った先から持って行っちまうんだ!!」 男性の方は女性のようにヒステリックになることなく、こちらへ話し掛けてきた。 「もしかしてあんた達、帝国軍の人かい?全く、どうしちまったのかねぇ。以前はこうじゃなかったのに・・・。バルバロッサさまは何をなさっているんだろう?」 シバ達には何も言うことができなかった。 民家を出るとシバはすっかり気落ちしていた。 「この町では貧富の差が激しいみたいだ。こんなに苦しんでいる人達がいるのに、僕は何もしてあげられない。」 「坊っちゃんは優しいですね。確かにこういった貧富の差があるのはおかしいことです。でもそのうちきっと、皇帝が何とかして下さいますよ。」 「でもグレミオ・・・。」 「さあ、行きましょう。」 グレミオに背中を押され、シバは仕方なしにその場を離れた。 グレイディの屋敷へ行く前に防具屋へ寄ってみることにした。 「1年前にゃあ武器なんていらなかったのに、最近はめっきり物騒になったからね。」 客の1人がそんなことを行っていた。 そんな客の話、そしてロックランドでの人々の暮らしぶりと不満。 自分はこれまで平和なグレッグミンスターでのうのうと暮らしてきたが、近いうちに何か良くないことが起こるのではないかと、シバは密かに不安を抱いていた。 |