逃亡
駐屯地へ戻る途中の山道では、仲間が大勢倒れていた。 「う・・・・うう・・・・・・・・・・。」 「・・・・・・・・・・・・・・・。」 「・・どうして・・・か・・・。」 「・・・・ない・・よ・・・。」 虫の息の者、もう既に息絶えている者、そんな者達ばかりであった。 「どうして・・・?さっきまでこんなにひどい様子じゃなかったのに・・・。」 「ユーリ、急ごう!」 「うん。」 2人が息を切らせながら駐屯地へ戻ると、ここでも凄まじい光景が広がっていた。 「・・・・・・・た・・・い・・・・。」 「・・・す・けて・・・・・・・。」 「・・・ぁ・・さん・・・。」 「ひどい・・・。」 ユーリは呆然とした。 目の前に広がっている光景が信じられなかった。 「ユーリ、あれを見て!」 ジョウイの声に我に返ったユーリは、言われた方向に目を向けた。 テントの近くには多数の兵士と隊長のラウドが集まっていた。 そしてもう1人、見知らぬ男が立っていた。 何となく様子がおかしいのを感じ、2人は隠れて様子を見ることにした。 「すっかり手はず通りです、ルカ様。皆、何も知らずに森へと逃げ込みました。今頃は、伏兵の餌食のはずです。」 ラウドが信じられないことを口にした。 「ははは!!!都市同盟の裏切りによって、死んだ犠牲者というわけだ。俺も剣を振るえば良かった。しばらく、あのクソジジイの相手ばかりだったからな。腕がなまって仕方がない。」 「え・・・ええ、い、いえいえ、ルカ様が剣を振るってもウチの兵共では、物足りないでしょう。」 隊長であるラウドがこの人物に対しては妙に下手に出ている。 そしてこの人物は妙な威圧感を感じさせていた。 「ふん。まぁ少年兵共だ。この程度の役に立てば充分だな。しかし、休戦協定などとくだらぬことを・・・・・。都市同盟ごとき、恐れる相手ではないことを証明してくれるわ!!!」 「そうですとも。ルカ様の下、ハイランド王国は大いなる栄光を手に入れることになります!!」 「こ、これは一体・・・・・。」 ジョウイは信じられないと言った表情で呟いた。 「隊長に確かめよう、ジョウイ。」 「そうだな、ユーリ。」 2人がラウドの元へと近付いて行くと、ラウドは慌てたように言った。 「き、貴様ら、何故東の森へ逃げなかったんだ!!」 「どういうことですか、ラウド隊長?説明して下さい。何故僕らを・・・それに、その男は誰ですか?」 ジョウイが思わず詰め寄ると、一緒にいた男が声を発した。 「ほう、自分の国に皇子の顔も知らんとはな・・・・。」 (皇子・・・?) 「は、早くこいつらを捕らえろ!!」 ラウドの命令で、兵士らが2人を取り囲んだ。 「ユーリ!」 「うん。」 2人は幼馴染ならではの息の合った攻撃で、何とか数人の兵士を倒した。 「逃げよう、ユーリ。でも東へ行けばむざむざ殺されるだけだ。北へ行って、あの崖を登れば何とかなるかもしれない。」 まさかジョウイと2人で星空を眺めたあの崖へ、こんな風に再び行くことになるとは思わなかった。 しかし、今生き延びる可能性があるのは、その場所だけであった。 2人は必死に走り出した。 「待て!逃がすなっ!」 ラウドの命じる声が聞こえたが、ひたすら走り続けた。 「はあっ・・・はぁっ・・・。」 心臓が破れそうに苦しい。 しかし走り続けるしかなかった。 2人もう何時間も走り続けたような気がしていたが、ようやく目指す崖へと辿り着いた。 崖の真下には巨大な滝が流れていた。 「はぁはぁはぁ・・・・だ、大丈夫かい、ユーリ、ケガはないか?」 「はぁはぁはぁ・・・うん・・・僕は大丈夫だよ・・・ジョウイ・・・。」 「し、しかしラウド隊長は何故・・・・。」 「それを知る必要はない。お前らはここで死ぬんだ。都市同盟の奇襲によってな。それ以外の未来はないぞ。」 現れたのは、もう2度と会いたくないと思っていたラウドと兵士達であった。 「た、隊長・・・。」 「お前らは、良い兵士だったのに残念だ。かかれ!」 小隊長と兵士がかかって来た。 「くそっ。」 2人は協力して何とか彼らを倒した。 しかし、逃亡と戦闘続きとで激しく肩で息をしている。 「おのれぇ・・・・・じたばたと、しつこい奴らだ。そこで待ってろ!!!すぐに戻って来るからな!!!!!」 援軍を呼びに行ったのであろうか? ラウドは自らかかっては来ずに、来た道を引き返して行った。 「このままじゃ、いつかやられる・・・・・。ユーリ、他に方法はない。この滝に飛び込もう。」 ジョウイがユーリの肩を掴んで言った。 「この急流じゃ、助からないよ。」 ユーリは不安そうである。 「ユーリ、逃げ道はない。隊長は僕らを見逃すつもりはないんだ。」 「それしか方法がないな。」 「よし・・・・。」 ジョウイは剣で、近くの岩に傷を付けた。 「もし、僕らが生き延びて・・・・・でも・・・離れ離れになってしまったら・・・その時は、ここに戻って来ることにしよう。そして・・・・・ここで、再会しよう。約束だ・・・・ユーリ・・・。」 「分かった。」 そう言ってユーリは剣で同じように印を付けた。 ジョウイの付けた傷にクロスさせるように・・・。 2人の誓いの傷跡だった。 「行くよ、ユーリ。」 そして互いに顔を見合わせて頷くと、同時に滝に飛び込んだ。 激しい滝の流れの中に、2人は吸い込まれて行った。 |