流されて
「全く、あいつめ、どこまで行ったんだか。この俺にガキを押し付けやがって。おい、ほらいい加減に目を覚ませよ。もう一回、流しちまうぞ。」 かなり大きめのそんな声が耳に届き、ユーリはクラクラする頭を振りながら立ち上がった。 辺りに目をやると川の下流らしく、すぐ側で川が流れているのが目に入った。 そして側には3人の見知らぬ男達が立っていた。 「やっと、お目覚めかい?おい、お前、名前は言えるか?」 大柄な男にそう尋ねられた。 先程聞こえてきた声の持ち主のようである。 「僕はユーリ。」 「言葉はしゃべれるみたいだな。ところで、何だってお前、こんな急流に・・。足でも滑らせたか?」 「都市同盟が急に攻めてきて・・・。でも・・。」 ユーリがそう答えると、男は不思議そうな顔をして言った。 「都市同盟?何言ってるんだ?休戦協定が結ばれたばかりだぜ。そんなことあるかよ。・・・・・・ん?」 男はふと言葉を止めると、ユーリを上から下までよく眺めてから再び口を開いた。 「お前、ハイランドの人間か?」 「ハイランド軍、ユニコーン隊の一員です。」 「そうか、だったらお前は俺達の敵だな。俺はビクトール。ジョウストン都市同盟に味方している傭兵の隊長だ。」 男が自己紹介をしていると、男がもう1人近付いて来た。 「ビクトール。お前、またガキをいじめて遊んでるんじゃないだろうな。」 「冗談だろ、フリック。俺様がそんなことをするかよ。これでも心優しい男なんだぜ。それよりも、もう一人の方はどうだった?」 「駄目だ、途中で見失った。どこかに打ち上げられていればいいが・・・。」 「そうか・・・。」 ビクトールはフリックの報告を聞くと、ユーリに向かってこう告げた。 「ようし、よく聞けよ。事情はどうあれ、しばらくお前は捕虜扱いだ。ちょいと、居心地の悪い思いをするかもしれんが、そこは我慢してくれ。」 ユーリはジョウイと離れていきなり敵だという傭兵の元へ流されて、不安な気持ちで一杯だった。 そんな気持ちが顔に出ていたのだろうか? ビクトールは人の良さそうな笑顔でこう続けた。 「そんなに心配そうな顔すんな。別に取って食うわけじゃねぇよ。おい、砦に戻るぞ。」 ユーリは砦へ連れて行かれると、牢屋のような狭い部屋へと案内された。 「さあて、しばらくはここがお前さんの部屋だ。狭いし、快適とは言えんが今は捕虜扱いだから、我慢しな。」 ビクトールはそう言って部屋を出ると、扉を閉めた。 そしてフリッツと一緒にその場を去ろうとしたが、振り返るとこう言った。 「夜は冷えるから、あったかくして寝た方がいいぜ。」 見た目は怖い印象ではあったが、ビクトールは親切な男のようだ。 これからどうなるのか、ジョウイは無事でいるのか。 考えることは沢山あったが、今はただこの状況を受け入れるしかなかった。 ベッドに潜り込んだユーリは、疲れのせいか間もなく深い眠りに入っていった。 |