朝歌の異変
朝歌の大門 一人の中年の男が朝歌の大門前にやって来る。 「お、あれは何だ?」 男が目にした物に近付いて行くと、天から光の柱が降りて来た。 光の柱の中から現れたのは太公望であった。 「って、しまった!俺はそれどこじゃなかったんだ!」 男は目の前の太公望に向かって声を掛ける。 「おう、そこどいてくんな!俺はもう、こんな町とはおさらばするんだからよ!」 太公望が男性に近付いて行く。 「どうしたんですか?」 「どうしたもこうしたもねえよ!あの女のせいでこの町は地獄になっちまった!」 「地獄って・・・・・・女のせい?」 「良かったら、どういうことか教えてくれませんか?」 太公望を一目見て、悪い人間ではないと思ったのであろう。 男は意を決したように、話し始めた。 「最近、この国の王様がとんでもない女を妃にしやがたんだ。」 「民を面白半分に殺すわ、払いきれない重税をかけるわ、巨大な宮殿を建てまくるわ・・・・・・。」 「素晴らしい王様だったのに、あの女にたぶらかされて今じゃ、すっかり暴君だよ!」 「あんたも、命が惜しかったらこの町には近寄らない方がいい。じゃあな!」 そう言うと男は、早足で立ち去って行ってしまった。 「あ・・・・・・行ってしまった・・・・・・。」 太公望は噂の町へと足を踏み入れた。 すると、一人の老人が近付いて来た。 「あ、あんた・・・・・・何か、食うもの・・・・・・持ってないか・・・・・・?」 「えっ?」 「税が払えなくて家財を全て奪われた・・・・・・。三日間、何も食べてない・・・・・・。」 あいにくと太公望に食べ物の持ち合わせはなかった。 太公望はうつむきながら答えた。 「すいません。お役に立てそうにないです・・・・・・。」 「まあ、仕方ないの・・・・・・、こんな世の中じゃから・・・・・・。お主が悪いわけじゃない・・・・・・。」 老人は辺りを見回すと、足を引きずりながら町を出て行った。 太公望には、老人を見送ることしかできなかった。 そんな太公望の耳に、文官と女官が立ち話をしている声が聞こえてきた。 「聞いたかい?宰相の楊任様の話!」 (もしかしたら、詳しい話が聞けるかもしれない。) 太公望は声のする方へと近付いて行った。 「ええ、目潰しの刑でしょ?お妃様の新宮殿建設に反対したものだから。」 「近衛将軍の黄飛虎様も、反逆者だと言いたてられて投獄されてしまうし・・・・・・。」 「もう耐えられないわ!お妃様の機嫌を損ねて処刑されるなんて、嫌よ!」 「おまけに、最近の化け物騒ぎ・・・・・・。全く、世も末だ。」 「えっ、化け物?あの・・・・・・その話を詳しく聞かせてくれませんか。」 太公望は詳しい話を聞こうと、文官に声を掛けた。 「ん?ああ、いいよ。最近、夜中になると町に化け物が現れるんだ。」 「食い殺された者は数知れず・・・・・・。何とか助かった者も恐怖のあまり正気を失う・・・・・・。」 「銀色の光を放つ巨大な化け物だそうだ。夜は外出しちゃいけないよ。」 「なるほど・・・・・・。どうもありがとうございます。」 太公望はその場を立ち去った。 (妃を迎えて、暴君と化した王に人食いの化け物・・・・・・) (ただ事じゃない・・・・・・。何が起こってるんだ?) その時、耳をつんざくような女性の悲鳴が聞こえた。 「嫌あっ!誰か!」 先程の文官と女官が何事かと、声のした方を振り返る。 太公望も辺りを見回す。 「何だ?あっちか!」 太公望は急いで、声のした方へと向かった。 |
◆封神演義◆