惨禍
「何ということだ!妻も息子も・・・・・・みんな・・・・・・殺されたというのか?」
「何故だ!一体何故、こんなことになったのだ!ああ・・・・・・。」 そう言うと黄飛虎は地面に座り込んでしまった。 太公望と楊も黄飛虎の気持ちを察してうな垂れる。 その時かすかだが、ガサガサという音が聞こえたような気がした。 いち早くその音を聞きつけた楊が尋ねた。 「ん?何か、音がしませんでしたか?」 「まだ、敵が?」 太公望が聞き返す。 「どうやら、物音はあそこから聞こえてきますね。」 太公望と楊は物音がした方へと近付いて行った。 その時、激しい声が聞こえた。 「近寄るな、下郎!近付けば、黄飛虎が息子、黄天祥が相手になるぞ!」 それは黄飛虎にとっては聞き覚えのある声であった。 「!?・・・・・・天祥?天祥・・・・・・なのか?」 「えっ・・・・・・父上?父上ーっ!!」 父親の姿を見つけた黄天祥が近付いて来る。 「良かった・・・・・・生きていてくれたのか・・・・・・。・・・・・・良かった。」 「奴らが押し込んで来た時、母上が、僕を箱の中に隠して絶対に出て来てはならないと・・・・・・。」 辺りを見回す黄天祥。 「は、母上は?どうしたのですか?叔父上や家の者達は?」 無言で首を横に振る黄飛虎。 「そんな・・・・・・では、母上は・・・・・・僕を守るために・・・・・・。」 楊と太公望は黄天祥に近付くと、励ますように言葉を掛けた。 「天祥君・・・・・・君のせいではないんだ。自分を責めてはいけない。」 「君は、亡くなった人達の分も精一杯生きなければいけないんだ。」 声を掛けてくれた2人を不思議そうに見る黄天祥。 「は、はい・・・・・・あなた方は?」 黄飛虎が2人を紹介する。 「こちらが太公望殿、そして、こちらが楊殿だ。わしを助けてくれた人達だよ。」 「そうでしたか・・・・・・。さっきはご無礼致しました。申し訳ございません。」 「いや、謝ることはない。将軍の息子として、当然だからね。」 楊が優しく答える。 「・・・・・・ところで、黄飛虎殿。敵は予想以上に素早く手を打っているようです。」 「ここにいれば、また新手が来るかもしれません。どうしますか?」 太公望が尋ると、黄飛虎が決心したように言った。 「・・・・・・わしは、決めた。」 「大恩ある陛下だが・・・・・・化け物に魅入られてしまってはもはや・・・・・・倒すしかあるまし。」 「わしは、反逆者となろう。この国を救うために・・・・・・。」 「それで・・・・・・どうなさるおつもりですか?」 楊が尋ねた。 「朝歌から西へ三千里・・・・・・隣国の西岐を目指そうと思う。」 「なるほど・・・・・・西岐の君主、姫発殿は若手ながら名君だと聞きます。」 「朝歌の状況を話せば力になってくれる可能性は高い。」 「西岐が我らの味方として立ってくれれば十分勝機があるというものですね。」 黄飛虎が頷く。 「まずは、潼関だな。西岐に向かう街道にある関門だ。そこの司令官・蘇護を訪ねる。」 「奴は姐己の父だ・・・・・・。娘の辿った運命を知らせてやらねば・・・・・・。」 「それでは、僕も朝歌を出るまで一緒に行きましょう。」 「奴らが、いつまた攻撃を仕掛けてくるか分からないですからね。」 「私も、ご一緒した方が良さそうですね。」 「2人共、ありがとう・・・・・・。となれば、出発は早い方がいい。」 「天祥、旅の準備だ。急ぐぞ。」 「はい、父上。」 天祥が旅の準備に取り掛かる。 こうして黄飛虎の息子、黄天祥が一行に加わったのである。 |
◆封神演義◆