翠屏山

太公望一行は翠屏山を訪れていた。

ふと、何かを見つけた天祥が前方を指差した。

「あっ!あれを見て下さい!」

一行がそちらに目をやると、少年が大の大人に向かって攻撃を仕掛けているのが見えた。

男性はこちらに向かって逃げて来ると、しゃがみこんでしまった。

「はぁ、はぁ、はぁ。た、助けて下され〜。」

「一体、どうしたんですか?」

太公望が尋ねると、男性は立ち上がって言った。

「それがし、李靖と申します。息子のなたが錯乱しまして、それがしに攻撃を・・・・・・。」

そうこうしている間に、その息子が近付いて来た。

「待ちやがれ、くそ親父!今日がてめえの命日だ!」

あまりの言い様に、黄飛虎がなたの元へと近付くと言った。

「子供のくれに父親に逆らうとは!ええい、この黄飛虎が相手になってやるわ!」

なたの方も負けてはいない。

「おっ?何だ、おっさん。このオレと勝負しようってのか?上等だ!かかって来な!」

「あっ!父上!」

天祥が慌てて前へ出たが、2人は戦いを始めてしまった。

太公望はとにかく詳しい話を聞こうと、李靖に問いかけた。

「李靖殿、僕は崑崙山の道士です。宜しければ、事情を。」

「ああ。それでは貴公が、元始天尊様に派遣された道士なのですな。それがし、師匠から貴公の手助けを命じられまして。」

なたと黄飛虎の戦いはまだ続いていた。

「えやっ。」

なたが黄飛虎に攻撃を仕掛けた。

「おっさん、ただの人間にしちゃ、楽しませてくれるじゃねえか。でも、どこまで続くかな?」

その様子を見ながら、李靖が困り果てた様子で言葉を続けた。

「あれの兄2人を修行先の洞府から連れ戻して、貴公と合流するつもりでした。ところが、出発しようとしたらあれが、『自分も連れて行け!』と、言い出したのです。」

「こわっぱ!この黄飛虎の攻撃、いつまでもかわせると思うな!」

黄飛虎の声が響く。

李靖は一瞬2人に目をやると、更に言葉を続けた。

「それがしは『子供の出る幕ではない!』と突っぱねました。すると、あの馬鹿は『じゃあ、てめえをぶちのめしてオレが代わりに行ってやる!』と、叫ぶなりそれがしに襲いかかったのです。」

「あなたの言うことも分かりますが・・・・・・。」

太公望は天祥の方に顔を向けた。

「天祥はどう思う?」

「父上と互角に戦えるなんて、並の強さじゃないです。僕と同じくらいの歳なのに・・・・・・。」

天祥の言葉を聞いて、太公望も決心がついたようである。

「李靖殿、あなたのご子息は立派に一行に加えるだけの力があります。彼にも同道してもらいます。」

「しかし・・・・・・。あれは、見ての通り大変な乱暴者で・・・・・・。まあ、貴公がそれでいいとおっしゃるなら、それがしは構いませんが・・・・・・。」

それを聞いた太公望は、戦っている2人の元へと近付いて行った。

「黄飛虎殿、武器を収めて下さい。なた君も、落ち着いて。」

「おっさんの加勢か?こりゃ、豪勢だね。2人まとめてかかって来な!」

なたは相変わらず強気である。

息子の暴言に、慌てて李靖が止めに入る。

「馬鹿息子!待たんか!その方は、元始天尊様のお弟子様だぞ!」

「だから何だってんだ!オレより強いのか!じゃあ、勝負だ!」

しかし太公望は怖気づいた様子もなく、おだやかに言った。

なた君!僕は君の強さを認める。一緒に妖魔と戦わないか?」

「へっ?何だって?」

思ってもみなかった言葉に、なたは驚いた。

「元々それが君の望みだろう。思い切り戦うといい。僕と一緒に来てくれるね?」

「あんた、なかなか話が分かるな。いいぜ、ついてってやるよ!ああ、それから、気持ち悪いから『なた君』はよしてくれ。『なた』でいいよ。」

「分かったよ、なた。これから宜しくな。」

ようやくほっとした様子の李靖が太公望に言った。

「それがしは、こいつの兄2人を迎えに参ります。息子が迷惑かけますが、宜しく。それから、私の師匠の燃灯道人の洞府をお使い下さいとの伝言をことづかっています。」

「それは在り難い。」

「とっとと失せろ!この役立たずの、口だけじじい!」

なたの口の悪さは相変わらずだった。

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