太乙真人

なた・・・・・・、死んでしまうんでしょうか?」

蟠竜嶺の本陣でピクリとも動かないなたを前に、黄天祥が言った。

「普通の人間だったら、あんな術を食らってはひとたまりもないが・・・・・・。」

太公望の言葉に、黄天祥はうつむいてしまった。

「ししょー・・・・・・、なた君、どう?」

白鶴童子がやって来て尋ねた。

「何だ、白鶴か。なたは大怪我だよ・・・・・・。何か用か?」

「何か、そっけないなあ。なた君のお師匠の太乙真人様をお連れしたのにぃ。」

白鶴童子はそう言ってほっぺたをふくらませた。

そんな白鶴童子をよそに、みるみるうちに天から光の柱が降りてくると、太乙真人その人が姿を現した。

「やあ、君が太公望君か。話は聞いたよ。なたが壊れたんだって?」

太公望が心配そうになたの方を見ると、太乙真人はなたに近付いて行った。

「あちゃー。こりゃまた、ひどくやられたね。どうしたんだい、これは?」

「太乙真人様、実はこの蟠竜嶺にいる妖魔に、なたが1人で挑みまして・・・・・・。」

「う〜ん、無謀な・・・・・・。ま、この子らしいと言えばこの子らしいが・・・・・・。」

「ししょー、あの妖魔はね、う文化って言うんだよ。術はね、偶人変化って言うの。」

「へえ、よく知ってるなあ。ちょっとだけ感心した。」

「ちょっとだけ・・・・・・。ししょーのいじわるぅ!」

「ところで、太乙真人様。あの偶人変化の術を防ぐ方法はありませんか?」

すると太乙真人は太公望の元へやって来て言った。

「うむ、実は元始天尊様に頼まれて、強力な妖魔に対抗する道具を君に渡しに来たんだよ、ほら・・・・・・。」

「これは・・・・・・?何かのお札みたいですが・・・・・・。」

「これは『符印』という物だ。崑崙派の奥義を封じた札さ。一度使うとなくなるが、気力を使わなくてもいいし道術の心得がなくても大丈夫だ。封じてある力が強すぎて、使わなくても、その日のうちに消滅してしまうのが難だがね。」

すると白鶴童子が張り切って言った。

「でも、大丈夫だよ!これからは、戦う前にあたしが符印を届けるからね。」

太乙真人は再びなたの元へと向かうと言った。

「それからなたは、私が一旦洞府に連れ帰ろう。ちゃんと『修理』してくるからね。」

そして太乙真人は術の力で光の柱と共に、なたを連れて天へと昇り始めた。

「ありがとうございます。なたを宜しくお願いします。」

太乙真人は黙って頷くと天空高く昇って行き、やがて見えなくなった。

「それじゃあ、また来るね。頑張ってね、ししょー!」

白鶴も元気に帰って行った。

「この符印をうまく使えば、あの化け物を倒せそうですな。」

「よし、今度こそ、奴を倒すぞ!」

黄飛虎の言葉に、太公望は力強く答えた。

こうして太公望一行は、なたの師匠、太乙真人の洞府へも自由に行けるようになったのである。

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封神演義