妲乙の父

潼関の司令室の扉が開き、黄飛虎を連れた鄭倫と兵士が入って来た。

「閣下、お喜び下され!陛下への反逆を企んだ不届き者を捕らえて参りましたぞ!」

鄭倫が喜び勇んで告げると、兵士は司令室を出て行った。

司令官である蘇護が顔をしかめながら返事を返した。

「いつもながら、騒々しいな。そんな大声でなくても聞こえておる・・・・・・全く。」

しかし鄭倫が捕らえている者の姿を見ると、慌てて言った。

「・・・・・・こ、黄飛虎!おい、鄭倫!わしの命令を聞いていなかったのか!」

「『黄飛虎を発見次第、伝えよ。』とのご指示でしたので捕らえたのですが・・・・・・。」

「う〜む。全く、貴様の早とちりには頭が痛いわ・・・・・・。さっさと黄飛虎の縄を解かんか!馬鹿者めが!」

「はっ。し、しかし・・・・・・。この男は、紂王陛下に反逆して朝歌を出奔、関門を破り・・・・・・。」

「解け、と言っているのが聞こえないのか!」

「は、はいっ!」

鄭倫はようやく黄飛虎の縄を解いた。

黄飛虎は立ち上がると苦笑しながら言った。

「久しぶりだというのにひどく荒っぽい歓迎をしてくれたものだな、蘇護よ。」

すると蘇護は脇に控えている鄭倫に目をやりながら言った。

「こいつは、悪気はないのだがども一本気が過ぎてな。申し訳ないことをした。」

「まあ、気にするな。鄭倫の言う通り、わしは反逆者には違いない。」

蘇護は歩いて行き背を向けると、言葉を続けた。

「朝歌でのいきさつは聞いている。陛下のあまりの変わりよう。全てわしの娘のせいだ・・・・・・。貴様にも一体何と詫びたら良いものか・・・・・・。言葉が見つからぬ。」

落胆する蘇護に向かって、黄飛虎は否定の言葉を発した。

「蘇護よ・・・・・・それは違うぞ。今、陛下の妃になっている妲乙は貴様の娘ではないのだ。」

信じられない言葉に蘇護は振り返ると、足を踏み出した。

「・・・・・・どういうことだ?」

「今の妲乙は、貴様の娘の姿を借りた化け物ギツネなのだ。わしは偶然その正体を知ったために、反逆の罪を着せられたのだ。」

「そうか・・・・・・そういうことだったのか・・・・・・。・・・・・・わしの娘は親の目から見ても心優しい、素直な娘だった。朝歌での狂気の沙汰を噂に聞いていても、到底信じられなかった。化け物に殺されたとは・・・・・・さぞかし、無念だったろうよ。妲乙・・・・・・。」

3人とも俯いてしまった。

しばらくして黄飛虎が顔を上げると言った。

「蘇護・・・・・・。わしは、化け物共を倒す。わしと組む気はないか?」

その申し出に、蘇護と鄭倫が顔を上げた。

「願ってもないことだ。是非、わしも仲間に加えてくれ。娘の仇は、必ずこの手で討つ!」

蘇護の言葉を受けて、鄭倫も黄飛虎の側へ歩み寄ると跪いて言った。

「黄飛虎殿!自分も、是非ご一行に加えて下されい!この鄭倫、一身を懸けてお嬢様の仇を討ちたいと切望するものであります!」

「こらこら、大声を出すな。わしが貴様を置いて行く訳がなかろうが。」

その言葉に安心したのか、鄭倫は立ち上がった。

その時、部屋の外から物音が聞こえてきた。

鄭倫は扉の方へ足を踏み出すと叫んだ。

「おい!貴様ら、騒がしいぞ!」

その途端に扉が開き、黄天祥と太公望がなだれ込んで来た。

黄天祥は弓を構え、太公望は打神鞭を構えている。

「父上、助けに参りましたっ!・・・・・・あれ?」

勢い込んで入って来たものの、黄天祥は様子がおかしいことに気付いた。

「天祥か、ご苦労だったな。しかし、話はもうついたぞ。蘇護と鄭倫が仲間に加わる。」

黄飛虎の言葉に黄天祥と太公望は顔を見合わせると、3人の元へと近付いて行った。

「そ、そうでしたか・・・・・・。良かった・・・・・・。」

太公望がほっとしたように言った。

「さあて、そうと決まれば旅の準備でありますな!お任せ下さい!」

鄭倫は張り切っている。

「・・・・・・鄭倫よ、さっきの吸魂光とやら、効いたぞ。」

黄飛虎がそう言うと、鄭倫は跪いて謝罪した。

「ははっ!も、申し訳ございません。」

しかし黄飛虎は笑いながら言葉を続けた。

「いやいや、頼もしいぞ。今日から仲間だ、宜しく頼む。」

「ところで・・・・・・今後だが、どうするつもりだ?」

蘇護が黄飛虎に尋ねた。

「うむ・・・・・・。実は、西岐に向かおうと思っている。」

「なるほど、姫発殿か!考えたな、黄飛虎。途中の界牌関にいるケ九公も誘えば、必ず一緒に来るだろう。」

「奴とも長いこと逢っていないが昔馴染みだ。きっと賛同してくれるだろう。」

「そうですね!そうと決まれば、明日にでもこの潼関を出ましょう。」

太公望が2人の意見に賛同した。

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