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俺は背が低い上に眼鏡をかけているせいで、教室の座席も一番前だ。
たまには後ろからみんなの頭を見てみたいよ。
でもそうすると黒板の字が見えないんだから、仕方がない。
「2直線ax+by=5、x+ay=bが点(2,1)で交わる時、定数a,bの値を求めなさい。この問題を・・・草薙、やってみろ。」
「はい。」
俺は前に出て、黒板に数式を書き始める。
「連立方程式2a+b=5と2+a=bを解くと、a=1、b=3という値が出ます。」
「正解だ。」
説明を終えると、先生が言った。
「草薙のやつ、相変わらずすごいよなー。」
周りから感嘆の声が漏れた。
実は勉強は得意だったりする。
だから甲斐にもノートを見せて欲しいって頼まれるんだけどな。
数学の授業が終わると、甲斐が俺の席にやって来た。
「助かったよー。優。またこの次も分からなかったら頼むなっ。」
宿題のノートは授業の終わりに集められたので、授業の間に甲斐は俺のノートを必死で写していたらしい。
「次は体育かあ。よっし、頑張るぞー。」
体を動かすことが好きな甲斐は、はしゃぎながら着替え始める。
えっ、着替えは教室で平気なのかって?
うちの学校は悲しいことに男子校だから平気なんだ。
女子との出会いなんて、中学校生活では有り得ないよなあ。
しくしく。
「おい、優も早く着替えろよ。」
「うんー。」
俺はもたもたと着替え始めた。
「早くしろよー。体育始まっちゃうぞ!」
ひと足早く着替えを終えた甲斐がせかすんだけど、なかなか着替えられない。
「もう、先に行くぞー。」
とうとう甲斐は先に外へ出て行ってしまった。
「待ってよー。薄情者ー。」
俺は泣きべそをかきながらようやく着替えを済ませると、教室を出て行った。

今日の体育は飛び箱だった。
みんな次々と飛んでは綺麗に着地していく。
俺はというと・・・。
「次っ!」
ぼてぼてっと走り出した俺は踏み切り板を思い切り蹴った。
はずだったのだが、飛び箱の上に座り込むのが精一杯だった。
「すごいじゃないか、優。飛び箱の上に乗れるようになったんだな。」
列の後ろに戻った俺に向かって、甲斐が声を掛けてきた。
「どうもありがとう。」
俺は素直ににっこりと笑顔を向けた。
飛び箱の上に座って何故すごいと言われるかというと、この間まで俺は、飛び箱に正面衝突していたからなんだ。
それが上に座れるようになったというだけで、すごいと言われるゆえんだったりする。
そう、俺は極度の運動音痴なんだ。
みんなはもっと高い飛び箱をすいすいと飛んで行くけど、俺にはそれ以上高い飛び箱は無理だった。
でも先生にも褒められたし、今日はこれで良しとしなきゃな。

休み時間は友達に誘われて、ババ抜きをして遊んだ。
「うっ。」
俺の表情が途端に困った顔になる。
ジョーカーを引いてしまったんだ。
周りのみんなは俺の表情を見て、なるほどと納得した表情を見せる。
しかし俺の目はジョーカーに釘付けで、そんな周りの様子には気付いていなかった。
結局それから何故か誰もジョーカーを引いてくれず、俺は負けてしまった。
「うーん。何で勝てないのかなー。」
そう、トランプでは俺はいつも負けてしまうのだ。
「草薙ってさー。何でも素直に顔に出すぎるんだよなー。」
「そうそう。それに妙に天然なところがあるし。」
「何だかからかいたくなるんだよなー。」
「そうなのー?」
俺はそう言って首をかしげた。
「そんなところがいいんだけどな。」
甲斐はまた俺の頭にぽんぽんと手を置いた。
「もう、頭に手を乗せるのやめてってばー。」
そんな感じで学校が終わり、俺は家路を急ぐことにした。
「おーい、優。もう帰るのか?」
「甲斐?うん。今日はお店を手伝わなくちゃいけないからー。」
鞄に教科書を詰めながらそう返事をすると、甲斐は言葉を続けた。
「じゃあ一緒に帰ろうぜ。」
「うん。」
こうしてみると、甲斐って一日中俺と一緒にいるような・・・。

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