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「ご馳走様でしたー。」
手を合わせて挨拶を済ませると、今度は皿洗いだ。
皿洗いは俺の仕事。
キュッキュッと食器を磨く時の音と、綺麗になった時のピカピカに輝く様子が俺は好きだったりする。
普通は夕飯を済ませるとお風呂に入ったりしてくつろぐんだろうけど、俺の家ではちょっと異なる。

「早く着替えろ、優。」
「はい・・・。」
先程までのほのぼのとした雰囲気とは一転して、張り詰めた空気が漂う。
俺は着替えを済ませると、地下の道場へと向かった。
1歩足を踏み入れると、物音ひとつしない聖域が広がっている。
普通の道場と違うのは、床は畳や木ではなく冷たいコンクリートになっている点と、壁には棚が設置されていてあらゆる武器が並べられているという点だ。
その他にも異なる点がある。
同じく壁には的や空き缶が沢山並べられており、床のあちこちにはがらくたのような物が多数置かれている。
「今日は2対1で行くぞ。」
俺の目の前には父さんと母さんが立っている。
普段の温和でほのぼのとした様子は、微塵も見られない。
そういう俺も、眼鏡を外して鋭い目を向ける。
今目の前にいるのは両親ではなく敵だ。
道場では俺達は親子ではなく、師匠と弟子の関係へと変化する。
「たあっ。」
俺は母さんに突きを入れると、素早く体を捻り、父さんに蹴りをみまった。
「甘いっ!」
攻撃は2つともかわされてしまう。
「くっ。」
逆に母さんに腕を取られた。
しかし俺はうまく腕を回すと逆に母さんの腕を掴み、手首をねじり上げた。
更に背面から膝の後ろに蹴りを入れると、前に屈んでバランスを崩した母さんの後頭部に肘鉄を入れ、後方にジャンプする。
そして壁に向かって走ると、ナイフに向かって手を伸ばした。
そして手に取ったナイフを父さんに向かって投げる。
シュッと音をたてて飛んだナイフは、父さんの腕に取り付けられた篭手によって弾かれた。
そしてスピードを増したナイフは、俺めがけて真っ直ぐに飛んできた。
そのナイフをかわした俺は、場所を移動すると塀の陰に隠れた。
2人の様子を窺いながら、そろそろと場所を移動する。
塀から岩へと・・・。
そして先程ナイフと一緒に手に取っていた箸手裏剣を投げた。
「よし、まあまあだな。」
父さんは息ひとつ乱すことなく、言った。
「次はこれだ。」
父さんは俺にコルトパイソン357マグナム4インチを手渡した。
銃刀法違反じゃないかって?
大丈夫。
俺達は銃のAライセンスを持っているからね。
俺は壁の的に向かって銃を構えると、引き金を引いた。
6発の玉を間髪入れずに発射する。
的には穴が1つだけ開いているように見える。
つまり、6発の玉はほぼ同じ場所に命中したことになる。
「よし、合格だ。次はあの並んだ空き缶に命中させるんだ。」
俺は6個の空き缶にもそれぞれ銃を命中させた。
だけど、一般市民が何故こんな実践さながらの訓練をしているかって?
それは家の特殊な環境が原因なんだよな。

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2005年7月1日更新