倦土重来〜鎮守の沼にも蛇は住む〜 第6話

「おい、2人共本当に大丈夫か?早退した方がいいんじゃないか?」
廊下を歩きながら一真君が心配そうに声を掛けてきた。
「大丈夫よ。今日は部活にも出なくちゃいけないし。」
私はもうすっかり気分が良くなっていたので、そう答えた。
「私も大丈夫よ。一真君、送ってくれてありがとう。」
蘭も一真君にお礼を言うと、3人はそれぞれの教室へと戻って行った。

その後は普段通り何事もなく無事に過ぎ、私と蘭は部活に出るべく音楽室へと向かった。

「ではもういちど最初からいきます。」
北条先輩の指示に皆が意識を集中させる。
今私達が練習しているのはモーツァルトの「魔笛」だった。
その中でも第2幕の「夜の女王のアリア」の練習に入っていた。
我が吹奏楽部は北条先輩というカリスマ的な存在によって、皆練習熱心で大会でもいつも上位に
入っている。
音が見事に揃って流れるような旋律を奏でている。
「はい。今日はここまでにしましょう。だいぶ良くなってきました。来週は期末試験ですので、
部活はお休みです。再来週また続きを練習しましょう。」
「はいっ。」
今日はかなりの出来だったと私も思う。
期末試験の勉強もしなくちゃいけないけど、大好きなピッコロもこっそり練習しちゃおっと。

「遅かったね。部活?」
「あっ、はい。すみません。テスト前の最後の部活だったもので、長引いちゃって。」
家に戻った私と蘭に声を掛けてきたのは、家庭教師の織田雅人先生。
1人で私達2人分の勉強を見てくれているの。
年齢は30歳くらいだと思う。
何でも帰国子女だとかで、かなりの秀才らしい。
今日は部活が長引いたから既に家に到着して待っていたみたい。
「では一息ついたら早速始めようか。」
「はい。着替えてきます。」
私は足取りも軽く階段を駆け上がって行った。
蘭は後から歩いて登って来る。
さてと、気合を入れて頑張らなくちゃ。
私が鞄を置いてから着替えていると、蘭が部屋に入ってきた。
「1週間部活がないと思うと何だかがっかりだね。」
「そうね。でもテストが終わればまた毎日練習よ。」
「蘭なんて、北条先輩に会えなくて寂しいんじゃない?」
「なっ、何言うのよ、あかね!」
蘭は頬を赤く染めた。
そうなんだ。
私は知っている。
蘭が北条先輩を好きなことを。
私も蘭も元々、阿倉学園の文化祭で先輩のソロ演奏の音色を聴いてファンになり、高校に進学し
て真っ先に吹奏楽部に入部した。
私は先輩の優しさは大好きだし、フルートの音色の素晴らしさに尊敬の念を抱いている。
でも蘭はだんだんと先輩自身を好きになり始めていた。
先輩も蘭も穏やかで落ち着いていて、並ぶと絵になるのよね。
きっとお似合いだと思う。
蘭はとても告白なんてできないと思うけど。
でも応援してあげたい。
何たって双子の姉妹だもんね。
「早くしないと、先生が待っているわよ。」
蘭はうまくはぐらかすと、先に先生を呼びに行ってしまった。

ようやく新メンバー登場です。
ちょっと落ち着きすぎ?
ところで蘭と北条先輩ってできちゃうんでしょうか?(笑)

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