■3■
このまま家に帰るのも勿体ない気がして、アルスは教会の屋根に登って辺りを見回してみた。 教会の高い屋根の上からは、小さなフィッシュベルの村が一望できた。 (明日はいよいよアミット漁だ。早く僕も父さんと一緒に沖へ出てみたいな。) 港の方を眺めたアルスはそう考えていた。 (さてと、そろそろ戻るか。) 家へ戻ったアルスは壁に掛けられた袋の中をゴソゴソとあさり始めた。 (あった、あった!) アルスは薬草を取り出すと、道具袋の中へと押し込んだ。 (キーファと一緒だと、いつ怪我をするか分からないからな。) そう考えてくすくすと笑う。 キーファとはグランエスタードの王子で、仲の良い友人である。 アルスとはよく気が合った。 確かアルスよりも2つ程年上だっただろうか。 王子だということを少しも鼻にかけない気さくな王子であった。 そして2人の間には、他の誰も知らない秘密があった。 自室に戻ったアルスは引き出しから皮の帽子を取り出した。 16歳の誕生日に買ってもらった真新しい帽子だ。 早速被ってみる。 決して高価なものではないが、日頃、漁に出てばかりであまり会うことのない父親が何とか都合をつけて一緒に買いに行ってくれたものだった。 アルスにとってはとても大切な思い出の品である。 それからアルスは大切に貯めていたお小遣いを箱の中から取り出した。 (110ゴールドか。少しはたしになるかな?) アルスの頭の中は漁のことでいっぱいだったはずなのだが、いつの間にか別のことを考えていた。 そう、キーファと2人だけの秘密の場所のことであった。 母親は既にすやすやと寝息を立てていた。 足音をたてないようにそっとベッドの脇を通ったつもりだったのだが、マーレは息子の足音を聞きつけたのか、目を覚ました。 「・・・・・・・・・・・・うん?どうしたの、アルス?早く眠らないと明日の朝、起きれないわよっ。」 「うん。お休みなさい。」 「お休み、アルス。」 「ぐがー、ぐがー。」 父親のボルカノは仕事で疲れたのか、豪快ないびきをかいて眠っている。 (明日は晴れるといいな。) そう考えてアルスは眠りについた。 |