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港は村中の人間ばかりか、よそから来た人間まで集まっていて、賑わいを見せていた。

「今日はまた長い航海になるのかしら・・・。どうか、私の夫や仲間の皆さんが無事に帰ってきますように。」

と、夫の無事を祈る妻もいれば、

「こういう日はやっぱりアルスの父さんみたいに、漁師が1番頼もしく思えるねえ。あたしも漁師の男と結婚すれば良かったよ。」

などと言っているおばさんもいた。

「はい、いらっしゃい!今日だけの特売品だよ!買わなきゃソンだよ!」

この日のためにグランエスタードからやって来たよろず屋の声が、周りの賑やかな声に負けじと響いている。

「何か買って行くかい?」

声に誘われ近付いて行ったアルスに、店の主人は声を掛けた。

「はいはい、品物はこちらだよ!アミットまんじゅうが1個10ゴールドにアミットせんべいは何と、1個5ゴールドだ!」

そう言って顔をあげたよろず屋は、アルスの顔をまじまじと見つめた。

「あれ?よく見たらボルカノさんのせがれのアルスじゃないか。新しい帽子を被っているんで、ちょっと分からなかったよ。」

そしてアルスの耳元に口を近付けると、そっと耳打ちした。

「アルスにこんな品を売りつけるわけにゃいかないや。あげるから持って行きな。」

「えっ?悪いよ、おじさん。」

「いいからいいから!」

よろず屋のおじさんはアルスにアミットまんじゅうとアミットせんべいを押し付けた。

「親父さんに宜しくな。ボルカノさんのことは、城下町でもよくウワサしてるんだ。荒れた海での1本釣りは今でも語り草だよ。」

「ありがとう、おじさん。」

「毎度ありぃ!」

よろず屋は何もなかったかのように、元気良くアルスを送り出した。

「わーい、わーい!アミットさんのお祭りだ!ボク知ってるよ!このお祭りはアミットさんのひいひいひいひい・・・ひいお爺ちゃんが始めたものなんだよね!」

そう言いながらはしゃいでいる子どもがいる。

「いつもは朝がニガ手なんだが、今日は早起きして城下町から来ちゃったよ。朝の散歩もたまにはいいもんだな。わっはっは。」

この男性はよっぽどアミット漁を楽しみにしていたのだろう。

(いいなあ、この雰囲気。今日だけはこの村もまるで城下町のように賑やかだ。)

普段見慣れた村とはまた違った、活気に溢れた様子を眺めていると、1人の女性に声を掛けられた。

「ねえねえ、あなたもこの村の人なんでしょ?やっぱり漁師になるの?」

「はい、僕の父も漁師ですから。」

「海の男ってス・テ・キ・・・。」

この女性のアルスを見る目は完全なハートである。

「じゃ、じゃあっ。」

アルスは慌てて逃げ出した。

「船はやっぱりいいねえ!何でも今年はボルカノさんの提案で、少し北の方まで行ってみるとか・・・。」

近くでそう話している男性の声が耳に飛び込んできた。

(そうなんだ。じゃあ今年はいつもよりも帰って来るのが遅れるのかなあ?)

そう考えながら港へ向かったアルスは、あれ?と思った。

(あの漁師さんは何で船に乗り込んでいないんだろう?もうそろそろ乗り込んでいてもいい時間なのに・・・。)

「うっ・・・ゴホン、ゴホン!」

アルスが近付いて行ってみると、その漁師は激しく咳き込んでいた。

「大丈夫ですか?」

「いや〜、カゼをこじらせちゃってさ。参ったよ。ゴホ、ゴホ!」

そう言って漁師はまた咳き込んだ。

「城下町から見習いに来て、やっと今日から船に乗せてもらえることになったのに・・・。オレってどうしていつも本番に弱いんだろ。トホホ。」

「それは残念でしたね。また次がありますから、ゆっくりと体を休めて下さいね。」

「ああ、ありがとう。ゴホッ・・・。君はこの村の子かい?」

「はい。」

「そうか。来年こそ行けるように、体をもっと鍛えるよ。」

「頑張って下さい!」

そう言うとアルスは、船の方へ近付いて行った。

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