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船に乗り込むと、アルスを見つけた漁師が声を掛けてきた。

「やあ、アルスじゃないか。オヤジさんがお待ちかねだぞ。アルスもそろそろ初漁に出てもいいトシだよな。ウデのいいボルカノさんにきっちり仕込んでもらえよ!」

「うん。僕も早く漁に出てみたいよ。」

船内にはモリが立てかけられていて、海上でいつ何があってもすぐにモリを使用できるようになっていた。

アルスは父親の元へ向かうのは後回しにして、船内の探索を始めた。

船上では、出航の準備を進める漁師達が、大声で話している。

「今回の漁は、いつもの年より少し北の方にまで足を伸ばすことになりそうだぜ。」

血気にはやる若い漁師達に、年配の漁師が声を掛けた。

「若いヤツは張り切って仕事するのがいいところだが、それが命取りになることもある。広大な海ではいつ何が起こるか分からない。そんな時のために、常に冷静でいなくてはな。」

そんな仲間の輪から1人外れた所にいる漁師が、アルスに話し掛けてきた。

「ねえ、アルスさん・・・ボクの気持ちが分かりますか!?」

「そんなこと急に言われても、僕には分からないよ。」

「そうですよね・・・やっとの思いでくどいて結婚したばかりの妻を置いて船旅に出るボクの・・・ボクの気持ちなんて、誰にも分からないんだっ!!」

かなりナーバスになっている漁師を見ながら、(うーん、確かにかわいそうだけど・・・。どうしようもないよね。)と、アルスは考えていた。

船底の方へと降りていくと、沢山の樽が並んでいた。

ふと、樽と樽との間から何かがひょっこりと覗いた気がして、アルスはそちらへ近付いて行ってみた。

「マ、マリベル!」

驚いたアルスは、つい叫んでしまった。

「シーッ!大きな声で話し掛けないでよっ。あたしがここにいることバレちゃうじゃないっ!」

「あれ?そこに誰かいるのか?」

(やばっ・・・。)

マリベルはそうっと背中を向けた。

そこへ、アルスの声を聞きつけたコック長がやって来た。

「ややっ、マリベルお嬢さん!またそんな所に隠れたりして・・・・・・。」

「もう・・・・・・。いいじゃないの。あたしが漁について行ったって!ね、見逃してよ、コック長!あなたの作るシチューって最高よ!ウフフ・・・。」

マリベルはとびきりの笑顔を見せた。

しかし、コック長の方が1枚上手だったらしい。

「・・・わしにお世辞を言ってもムダですぞ。さあ、お父上に叱られないうちに船を降りなされ。」

続いてコック長はアルスに向かって言った。

「ああ、それからアルス、丁度良かった。イモの皮むき手伝っとくれ。」

そう言うと、コック長は厨房へと戻って行った。

「きい〜っっ!何よ、アルスのバカっ。あんたとキーファ王子の秘密の場所、バラしちゃうからっ!」

せっかくのチャンスを逃したマリベルが、捨て台詞を残してすごすごと帰って行く。

(ふう・・・マリベルの我儘にも困るよなあ。)

そんなことを考えながら、厨房へと向かうアルスに声を掛けてきた者があった。

「フィッシュベルの漁師ボルカノといやあ、城下町でも名の知れた達人よ。そんな男を父に持ったことを誇りに思うんだな、アルスよ。それに引き換え、ボルカノの弟といやあ、城下町でも名の知れた・・・」

そう言い掛けた漁師はハッとしたように、口をつぐんだ。

「おっと、他人の悪口はオレの美学が許さねえ。聞かなかったことにしてくんな。」

何故その漁師がボルカノの弟について話すのをやめたのか、それはおいおい分かることだろう。

アルスが厨房に入ると、コック長がウィンクをしながら言った。

「おお、来たかアルス。いや、実はもう、イモの皮むきはほとんど終わっとるんじゃよ。お互いマリベルお嬢さんには手を焼くのう。ほっほっほ。」

「ありがとう、コック長さん。」

コック長もマリベルの扱いには慣れたもので、機転を利かせてくれたのであった。

「じゃあ、僕そろそろ甲板へと上がるね。」

「おお、またしばらく会えなくなるが、元気でな。今度おいしいシチューを食わせてやるぞ。」

「ありがとう、じゃあまた!」

アルスが甲板へと出て行くと、出港祝いの花火が派手な音をたてて上がった。

アルスを見つけたボルカノが、息子に別れの言葉を掛ける。

「アルス。いよいよ出航の時間だ。お前も早く漁に出たいだろうが、今はまだ足手まといにすぎない。まあ、焦らず修行をすることだな。そうすりゃお前のような男だって、いつかは立派な漁師になれるさ。なんたって、このオレの息子なんだからな。わっはっはっ!」

そう言ってボルカノは豪快に笑った。

「アルスよ。オレのいない間、母さんのことしっかり頼んだぞ!」

「うん。父さん・・・。」

アルスは少し感傷的になって、視界が潤み始めた。

アルスは感傷に浸ったまま、船を降りた。

「出航だー!イカリを上げろー!」

アミットが声を上げる。

再び出航を知らせる花火が上がった。

船はみるみる沖へと離れて行く。

しばらく出航の様子を見物していた観客も、船が見えなくなるとそれぞれ自宅へと帰って行った。

(父さん、無事で帰って来て・・・。)

そう祈りながらアルスも家に戻ろうとした。

その時・・・・・・。

「ああっ、父さんにアンチョビサンド渡すの忘れたーっ!!」

しかし、後のまつりであった。

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