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(どうしよう。せっかく母さんが父さんのために作ってくれたアンチョビサンドを渡すのを忘れるなんて・・・。)

まっすぐ家に帰るのが憂鬱で、アルスは何となくアミットさんの家へと向かっていた。

アミットさんはマリベルの父親で、フィッシュベルの村の網元でもあった。

マリベルの母親はアルスを見るなり、娘に対する不満を口にした。

「全くうちのマリベルにも困ったものだわ。せっかく家庭教師の先生に来て頂いても、いつも逃げ出してしまうし・・・。一体いつになったらおしとやかな女性に育ってくれるのかしら。」

(僕の方こそ聞きたいよ・・・。)

密かに心の中で考えるアルスであった。

アミットさんの家には、大きな船の模型があった。

その立派な模型を眺めながらアルスは、いつか自分もこんなに立派な船を持てるようになりたいと考えていた。

日頃の仕事で疲れているのか、メイドがうつらうつらと眠っているのが目に入った。

(こんなに大きなお屋敷だもんな。きっと掃除なんかも大変なんだろうな。)

アルスは見て見ぬふりをして、そっと側を離れた。

2階にはマリベルの部屋があった。

見つからないようにそっと足音をしのばせていたはずだったが、アルスの姿を目ざとく見つけたマリベルは、遠慮なく声を掛けてきた。

「あら、何の用?アルス。ふん・・・あんたはいいわよね。いつかは船に乗ってこの島の外へ行けるんだもん。どうせ行ったって、周りは海だけしかないって言われてるけど・・・。でもそれって、実はウソかも知れないじゃん!」

「フーッ!!」

マリベルの愛猫までもが毛を逆立ててマリベルの意見に賛成しているようである。

「ちょっと家に帰る前に寄ってみただけなんだ。じゃあまた。」

アルスは慌ててマリベルの部屋を後にした。

アミットさんの家を出たところで、兵士がやって来るのが見えた。

兵士はアルスを見つけると慌てて近付いて来た。

「ああ、こちらでしたか、アルス殿。王様が何としてもアルス殿と話したいと申されて・・・。いつも通り、海岸沿いの道を歩いて北西のお城までご足労願えますまいか?」

「王様が僕に?はい、分かりました。」

「お願い致しましたぞ!ではっ!」

その途端、マリベルが家の中から姿を現した。

「フフフ・・・・・・聞いたわよ、アルス。またお城へ呼ばれたのね。あたしも一緒に行くわ!いいわよね?」

「だ、駄目だよマリベル。君は呼ばれていないんだから。」

アルスは慌てて反対したが、おとなしく引き下がるようなマリベルではなかった。

「さっきはあんたのせいで船から出されちゃったのよ。このくらい諦めなさいよ。さあ、行くわよ!」

マリベルは強引にアルスについて来るつもりのようである。

「でも・・・。」

「何?さっさと村を出てお城に行くわよ!もう分かってると思うけど、お城は海沿いを北西だからねっ。」

(あーあ・・・仕方ないか・・・。)

アルスは諦めてマリベルと一緒に城へと向かうことにしたのであった。

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