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「ねえちょっと、アルスってば!」

マリベルがアルスの姿を頭のてっぺんから爪先までジロジロ眺めながら言った。

「ん?何?」

「あんたこれから王様に会いに行くっていうのに、そんな漁師丸出しの格好で行くわけ?」

「だっていつもこの格好だよ。」

何を今更、といったようにアルスが言う。

「あ、あんた1人ならいいかもしれないけど、このあたしが一緒なんですからね。恥ずかしいじゃない。せめてもう少し戦士っぽい格好で行くとかさ。」

「何で?戦士でもないのに。」

マリベルの言っていることははっきり言って滅茶苦茶だ。

「そんなに嫌なら着いて来なければいいのに・・・。」

「何ですって?あたしがせっかく、頼りないアルスに着いて行ってあげようって言っているのに!」

マリベルに聴こえないように小声でつぶやいたつもりだったが、マリベルには筒抜けのようであった。

「とにかく、武器を買いに行くわよ。」

ずるずるとアルスの襟元を引っ張るようにマリベルがよろず屋の方へと向かう。

「マリベルの方がよっぽど戦士みたいだよ。」

「何か言った?アルス?」

マリベルの瞳がキラリと光る。

「う、ううん。何でもないよ、ほんと。」

アルスは慌ててブンブンと首を横に振った。

「ま、いいわ。」

思ったよりもすんなりと見逃してくれたようだ。

アルスはほっと息を吐いた。

よろず屋へ足を踏み入れると、主人の元気な声が響いた。

「いらっしゃい。ここはよろず屋だよ。さて、どの品物を買ってくれるのかな?」

「え、えっとー。」

アルスはポケットをゴソゴソと探ると、わずかばかりの金貨を取り出した。

「あら、あんまりいい品物がないわねえ。もっとすごい武器とか鎧はないの?」

「すみません、マリベルお嬢さん。外へ出ても危険なことなんて何もないんで、武器や防具を置く必要はないんですよ。」

「ふーん、ま、こんな村じゃしょうがないわね。」

自分だってこの小さな村に住んでいるのだろうに、と頭の中で考えつつも、今度は口には出さずにいるアルスであった。

「で、どれにするんだい?」

「えーっと、僕、少ししかお金を持ってないんです。」

「まあ、あんたってばこんだけしか持ってないの?」

マリベルが大きな声で叫んだ。

アルスは顔を真っ赤にしながら小さな声で言った。

「えっと・・・ひのきの棒を下さい。」

「ひのきの棒だね。毎度有難う!またいつでも来ておくれよ!」

「は、はい。」

店を出るなりマリベルが言った。

「ひのきの棒だけなんて格好悪いけど、ま、ないよりはマシかしらね。アルス、危険な目に遭ったら、あんたがあたしを守るのよ。いいわね?」

「う、うん。」

危険なことなんてあるわけないのにと思いながらアルスはマリベルに返事を返した。

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