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とりあえず武器になる物を買ったアルスは、マリベルのたっての希望により無理矢理よろず屋へと足を運ぶことになった。 あと少しでよろず屋だというところで、アルスの洋服の裾を引っ張る少年がいた。 「ん?」 少年はにこにこと顔中に笑みを浮かべながらアルスを見上げると、言った。 「ボクの父ちゃんは漁師さんだいっ!お魚一杯捕って来てくれるって約束したんだ。」 「そうか、僕の父さんも漁師なんだ。きっと魚を沢山捕って戻ってくるよ。」 「うん!」 少年は嬉しそうに走り去って行った。 「さあ、早く行くわよ!」 マリベルがアレスをつついた。 「分かったよー。」 よろず屋へ足を踏み入れると、奥さんが話し掛けてきた。 「やれやれ、今年も無事に出航したねえ。毎年この時期になると、アルスが生まれた時のことを思い出すよ。だってあの時、アミット漁でボルカノさんが留守だってのに、マーレのお腹が痛み出して・・・。予定より4ヶ月も早かったんだからね。一体どうなることかと思ったけどさ。まるまるした大きな赤ちゃんで、みんなびっくりしたんだよ。アルスは覚えてないだろうけど、父さんも母さんも本当に喜んでいたっけ。アルスもそろそろ大人なんだから、これからは親孝行してあげるんだよ。」 アミット漁の時期になると、毎年必ずこの話を聞かされるアルスであった。 よろず屋の主人の元へと足を運ぶと、主人がうんざりしたように言った。 「毎年アミット漁の日になると、うちのカミさんがグチを言うんで困るよ。あんたは何で漁師じゃないの!?とか・・・。こういう日は漁師が一番頼もしく見えるから、仕方がないがね。ハァ・・・。」 「まあね、この村では漁師が一番偉いんだから、仕方がないわ。諦めるのね。」 「マリベルってば・・・。」 アルスが慌てて口を挟んだのだが・・・。 「はぁ・・・やっぱりそういうもんですかねえ。」 主人は余計落ち込んでしまったようだった。 「せいぜい頑張るのよ。それじゃあね。」 マリベルはさっさと店を出て行ってしまった。 「マリベルってば・・・。えっと・・・ごめんなさい。」 アルスは慌てて謝った。 「いいんだよ、アルス。本当のことなんだから・・・。」 「でも、よろず屋さんがいないと村の人達も困ると思うよ。」 「ありがとう、アルス。いつも優しいね。」 「そんなこと・・・。」 アルスが照れたように言うと、再びマリベルが店の扉を開けた。 「何やってるの?アルス!早く行くわよ。全くあんたってば本当にトロいんだから・・・。」 「う、うん。じゃ、また・・・。」 アルスは店の主人に挨拶をすると、慌てて店を出て行った。 |