10


ここ、フィッシュベルの村の外れには、謎の洞窟があった。

アルスは洞窟へと足を運んだ。

「うーん、うーん。」

「アルスってば何やってるのよ!」

地面にある重い石の蓋を必死で持ち上げようとしているアルスを見て、マリベルが呆れたように言った。

「な〜に?まさかあたしに手伝わせようとしていないでしょうね。あたしは早く城下町に行きたいの。分かってんの?」

「うん。分かったよ、マリベル。」

アルスはしぶしぶその場所を離れた。

「ちょっとアルス!あんたの家に寄って行くわよ。」

早く行きたいと言ったかと思うとこれである。

家に辿り着くと、母親のマーレが出迎えてくれた。

「おやアルス。何処に行ったかと思ったら、マリベルさんと一緒だったのかい?」

「おばさんこんにちは。」

マリベルはちゃっかりと極上の笑顔で挨拶した。

「まあ!いつ見てもマリベルさんはしっかりしてそうでいいわねえ。それに比べてアルスときたら、いつまでも頼りなくて・・・・・・。あっそうそう!お城からの使いの人にもう会ったかい?」

「うん。会ったよ、母さん。」

「王様がお呼びのようだから、早く行ってあげなさい。けど王様やキーファ王子がいくら仲良くして下さるからって、失礼なことをしちゃいけないよ。」

「うん。分かってるよ。じゃあ行って来ます。」

そう言って家を出ようとしたアルスを母親の声が呼び止めた。

「あ、それからこれを持ってお行き!」

マーレはアルスに小さな包みを手渡した。

「小魚の佃煮だよ。キーファ王子の好物でしょ。さあ、行っておいで!」

「ありがとう、母さん。」

「さて・・・と。男達は漁に出掛けたことだし、私も一休みしようかしらね。」

アルス達を送り出したマーレは、ふうっと息を吐くと、ゆっくりと腰を降ろした。

「あら、アルスとマリベルさん。こんにちは!いいですね。2人いつも仲が良くて。」

2人が並んで歩いている姿を見つけて、声を掛けてくる者がいた。

「まあーっ、仲がいいですって?とんでもない!アルスが頼りないから、あたしがついて行ってあげてるんじゃない!」

マリベルはおかんむりのようである。

近所の家へ立ち寄ると、奥さんがニコニコしながら言った。

「あらアルス。ボルカノ父さんかっこ良かったね!舵を取ってた私の夫には負けるけど。ウフフ・・・。」

「ご馳走様!」

マリベルがからかう。

「あっ、そうだ。マリベル!僕、まだ今日は教会へ行っていなかったんだ。」

「そんなの後でいいじゃない!」

「だって・・・、毎朝祈らなくちゃ。神様への感謝の気持ちを忘れないようにしなくちゃいけないんだよ。父さん達の航海の無事を祈ってから行こうよ。」

「わ、分かったわよ。あたしもアミット漁が無事に終わってくれないと困るからね。」

教会へ向かうと、熱心な信者である老人が祈りを捧げていた。

「こうして毎日が平和に過ごせるのも、神様が何処かで見守って下さるからじゃ。世界はこの島だけなんで、神様も見守りやすいひゃろうな。ふぁっ、ふぁっ、ふぁっ。」

アルスの姿を見つけた神父が嬉しそうに声を掛けてきた。

「おお、アルス。アミット船は無事に出航したようだな。お前も一緒に行きたかっただろうが、修行はまだまだこれからじゃ。お前ももう16才。いつまでもキーファ王子と遊んでいては、お前の叔父さんのようになってしまうぞ。」

実は、アルスの父ボルカノには弟が1人いた。

ところがその弟は兄には似ても似つかない人物であった。

そのことについては後ほど語られることになるであろう。

僅かにため息をつきながら、神父は再び口を開いた。

「ところで・・・・・・。頼もしき神の僕よ、我が教会にどんなご用じゃな?」

「祈りを捧げに来ました。神父様。」

アルスが厳かにそう告げると、神父は小さいがよく通る声でこう告げた。

「では、神の前にこれまでの行いを告白なさい。」

アルスは毎日を無事に過ごせることへと感謝の気持ちを表しながら、アミット漁が無事に終わることを祈った。

「お祈りは終わったわね。じゃあ行くわよ。」

マリベルに促されて、アルスは教会を後にした。

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