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宿屋といえば酒場がつきもので、ここグランエスタードの宿屋にも酒場が存在していた。

アルスが宿に足を踏み入れると、酒場のバニーガールが待ちかねたように声を掛けてきた。

「あなた確か、ホンダラさんの甥っ子だったわね?」

「は、はい。」

嫌な予感がする、とアルスは思った。

「だったらちょっと言っといてよ。いつも来てくれるのはありがたいんだけど・・・そろそろたまっているツケを払うようにって。頼んだわよ。」

やはりそうであった。

ホンダラの名前が出る時はろくでもないことを言われるのだ。

アルスは頭を抱えたくなった。

「やあアルス。また城に遊びに来たのかい?」

声を掛けてきたのは、酒場のマスターである。

「あっ、おじさんこんにちは。」

「そういや、お前のおじさん、今日は珍しくまだ顔を見せてないぞ。いつもなら今頃はもう、ここで一杯やってる時間なのにどうしたのかねえ。」

本当に珍しいこともあるものだ。

ホンダラは大抵この酒場に入り浸っているはずなのである。

アルスの姿を見つけて、顔馴染みの老人が声を掛けてきた。

アルスのことを本当の孫のようにかわいがってくれる老人である。

「おおっ、アルスか・・・。よう来た、よう来た。ボルカノ殿は元気かな?」

「父は今、アミット漁に出掛けています。」

「何と、アミット漁に?おお、今年ももうそんな時期か。月日の経つのは早いもんじゃのう。」

そんな会話をしていると、今度は宿屋の主人が声を掛けてきた。

「おや、アルスじゃないか。今日は親父さんのお使いかい?」

「いいえ、違います。」

「つうことは、またキーファ王子に呼び出されたってことか・・・・・・。」

「え?違いますよ。王様に呼ばれたんです。」

「え?違う?王様の方だと?そりゃまた珍しいな。王様がアルスに何の用があるっていうんだろうな。」

主人は首をかしげている。

アルスは次に宿屋の2階へと向かった。

部屋には鏡が置かれていた。

アルスは何気なく鏡を覗いてみた。

(結構ホクロがあるなあ。)

アルスは意味もなくホクロの数を数えてみた。

「さあて、これで良しと。この部屋も綺麗になったわ。これで、お客様に気持ち良く泊まって頂けるわね。」

(僕、何をやっているんだろう。)

掃除をしていた従業員の声にはっと我にかえったアルスは、宿屋を出て民家へと向かった。

「これは聞いた話だが、キーファ王子は近頃良からぬ事に熱中してるとか。けど王子が自分からそんな事をするはずないし・・・。ありゃきっと、付き合ってる友達が悪いんだな。うん。」

男性はそんなことを言った。

次にアルスは、教会へと向かった。

「この年まで何事もなく無事に生きてこれたのも皆、神様のお陰。これからもずっとこの国が平和でありますようにと、こうして毎日祈っておりますのじゃ。」

老婆はその言葉通り、毎日熱心に祈りを捧げているのだろう。

かと思えば、無邪気にこんなことを言っている少年もいた。

「ねえ?神様って本当にいるの?もしいるとしたらどこにいるんだろ?やっぱりお空の上かなあ。」

次にアルスが向かったのは、よろず屋であった。

カウンターでは、主人が店番をしていた。

「うん、オルカの友達かい?オルカなら2階にいるぞ。」

主人は気楽にそう言ったが、奥さんの方はうんざりしたようにこう言った。

「うちの息子のオルカときたら、最近フィッシュベルの娘さんと付き合ってるみたいだけど・・・。あたしはあの娘をあんまし好きになれないね。何だかわがままそうだし。」

2階へ上がって行くと、鎧の置物が飾られていた。

見たところ、かなり古いものらしい。

ところがアルスは、そこで思いもかけない人物に出会うことになった。

「あらアルス。あたしのことが気になって様子を見に来たんでしょ?うふふ。でも安心していいわよ。あたしとオルカは、別に恋人同士とかじゃないから。あ〜あ、モテる女の子は辛いなあ・・・・・・。」

(いや、来たのは偶然なんだけど・・・。)

マリベルのまくしたてるような言い方に、アルスは何も言い返せなかった。

すると、一緒にいたオルカが不機嫌そうに言った。

「何だよお前。今2人で話してるんだからジャマすんなよな!」

「うん、すぐに出て行くよ。」

そう言ってアルスは、早々によろず屋を立ち去ったのであった。

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